第七話 ラブレター
下駄箱まで来ると、田中さんは日直の仕事があるから、と言って先に走って行ってしまった。
残される僕と有紗。
「手でも繋いでみる?」
「ここで繋いだら、教室に入ったら袋叩きにあうよ」
「あはははっ、言い過ぎぃ。まあ、冗談だけどね」
舌を出していつもの悪戯ぽい表情をしながら、下駄箱を開ける冬月さん。
「あらっ、これは?」
白いラブレターを手に取る。綺麗な白の封筒にハートのシールで閉じていた。冬月さんが裏返すと、近藤太一と書かれてある。
「太一……って……」
クラス一で1番の秀才でイケメンの太一からのラブレターか。僕の心臓はドクンと大きく鳴った。
「なんかね、お昼休みに屋上に来てって書いてるよ」
有紗は僕をじっと見つめた。
「どうしよっ、か?」
「どうしようとは?」
「いやさ、屋上に呼ばれたら、なんかあるわけでしょ」
「たぶん、告白とか?」
「そうじゃないかもしれないけどもね。もしかしたら、何か落とし物してて、返すだけかもしれないし」
その方が不思議だ。それなら、面と向かって返すだろう。
「やっぱり、行ったほうがいいのかなぁ?」
「屋上にだよね」
「そうそう、でもねえ、ご飯食べる時間も少なくなるしぃ」
そのまま歩きだす有紗。僕を置いて教室の方に向かう。流石にここから一緒に教室に入るのは、まずいと思い僕は後ろからついていく感じで教室に向かって歩く。
「どうしようか、ねえ」
数歩歩いて、立ち止まる。
「あれ? 佐藤……くん?」
横に並んで歩いていると思っていたのか、ぐるっと見渡すように、こちらに振り向いた。
「なんで、そんなに離れてるの?」
「このまま、教室に入るのはさすがに」
「うーん、そこのとこ。わかんないや。わたしはいいんだけどなぁ」
それから、トボトボと歩く有紗。どうしようかなぁ、と独り言のように言ってる。
「あっ、着いちゃったね。じゃあ……」
とだけ言うと教室に入って行った。
「遅いよ」
と言う田中さんの声とエヘヘと言う有紗の声が聞こえる。
有紗と太一ならばスクールカースト的にはちょうどいいだろう。容姿は有紗の方が数段上だが、クラスで釣り合いの取れる男なんていない。しかも太一は学年トップだ。学年二位の有紗を遥かに引き離していた。やはり、有紗はOKするのだろうか。
流石にこれ以上は、有紗が決めることで僕が言えることではない。短い片想いだったな、と思いながら、教室に入ろうと一歩足を踏み入れた。
うわっ、僕が踏み入れた瞬間、教室の男子全員と女子の半数の視線が僕に集中する。男子の視線は限りなく殺意に近かった。
この視線を感じながら、今日一日過ごすのか。僕は慣れない視線を感じながら、自分の席に座る。
「よっ、色男」
後ろの席に座る朝倉慎吾が僕の肩を叩いた。そういや、こいつかなり馴れ馴れしいやつで、僕以外の全員に話しかけていたっけ。
僕が後ろを振り向くと、面白そうなものを見る目で僕を見ていた。
「お前、凄いよなぁ。クラス一美少女の冬月さんをお持ち帰りするなんてさ」
「お持ち帰りなんてしてないよ。それにあれは冬月さんが……」
「それ以上は言わない方がいいよ。昨日帰った後、お前をどうしてやるか、男子の何人かが話し合ってたんだから……」
やはり、みんな鳥頭では無かった。このままでは東京湾に沈められるのが早いか、みんなに呼び出されて袋叩きにあうのが早いか。どっちかだよ。
「まあ、俺は冬月さんより田中さん派だから……」
「えっ? 東京湾に沈められたい願望でもあるの?」
田中さんの名前が出た瞬間、あの言葉が頭によぎった。
「なんだよ、その東京湾って、今時そんなことヤクザでも言わないぞ」
さっき感じたことをそのまま代弁してくる慎吾。まあ、そんなことはさておき。こいつは事情通でもあったっけ。
「でもよ、昨日のはスカーっとしたよ」
爽やかな笑顔でにっこり笑う。結構イケメンだと思うけども、田中さん狙いとはなかなか命知らずと言うか。それよりも、スカッとしたと言う言葉の方が気になった。
「なんで? みんな冬月さん狙いで僕が拉致したと思ってるんでしょ」
「まあ、どう考えてもその考え無理あるじゃん。それにさ、イケメンを自称するやつ、一年の頃から本当にウザくてな。それでも美少女はイケメンと付き合うんだろうな、って思ってたんだよ」
慎吾が楽しいものでも見るように僕を見る。
「それがさ、こんなモブ男に声かけるなんて、誰が思うよ」
あははは、と大きな声で笑う。みんなの視線が無茶苦茶痛いんですけども。
「しーっ、もうちょい小さな声で喋ってよ」
「無理だって、お前さ。昨日のあれでクラスのイケメングループの中じゃボコりたいランクナンバーワンに輝いてるんだからさ」
そう言うともう一度、手を叩いて笑いだした。笑える状態じゃなくて、洒落にならない状態なんですけども。
「あっ、そういやさ。クラスの中で一番秀才でイケメンの太一がふざけるな。冬月さんは俺のものだとか口走ってたわ。きっと今日くらい告白するじゃね」
「えっ、ラブレター……」
「なんか見たのか」
「下駄箱の中にラブレターがあったみたい」
「てか、冬月さんと一緒に登校までしてたんか?」
「いや、そのさ……」
「で、お前どうすんの?」
慎吾にとって一緒に登校するよりも重要なことがあるのか真面目な表情をすると僕の耳元で小さな声で言った。
「太一ってさ。かなり強引に女の子と付き合ってるって聞くんだよ。お前、放ってたら取られるぞ」
「でも、僕と冬月さんとは昨日初めて話しただけだし。僕が何か言える立場じゃないしさ」
慎吾は僕の両肩をしっかりと握ると目を合わせた。
「お前、馬鹿かよ。取られるの意味分かってんのか。冬月さんを大切に思うならさ。命懸けで行けよ」
それだけ言うと、椅子に深く座る。
「まあ、俺は関係ないけどよ。そう言う杓子定規な答えが気に食わねえんだよ。冬月さんがモブ男に声かけんのどれだけ勇気いるか、胸に手を当ててよーく考えるんだな」
―――――
どうなっちゃうんでしょうか。
冬月さんとの関係は大丈夫???
今後とも応援よろしくお願いします。
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