第15話 開店する前に
源さんに飼育小屋、トイレを作って貰ってから数日。簡単な食料の卸先を手配した俺は比奈の家の前へと来ていた。
メマを俺と居ることに慣れて来てはいるし、俺もおとーちゃんと呼ばれる事に慣れてしまっている。
だが今日、こうも何日も子供が親元を離れるのはどうかと思い、ゴロゴロしている所を俺は母さんに叩き起こされたのだ。
比奈よ、どうか。俺に答えを教えてくれ。そうしないと、俺の頭に年甲斐も無くタンコブがまた増えるぞ。
「比奈おねーちゃんに会いに行くの?」
「あぁ、会ってくれるかは分からないけどな」
言いながら俺はインターホンを押した。
『はーい』
「あ、どうも」
『あら、哲平君。来てくれたのね』
「はい。前に聞けなかった事、比奈から聞こうと思って」
『そう……今開けるわね』
そして俺達は比奈母にまた迎え入れられて、お邪魔する。
「こんにちはー!!」
「はい、こんにちは。メマちゃんも来てたのね」
メマが手を挙げて挨拶すると、比奈母も笑顔で挨拶をする。
最近気付いたが、メマは挨拶するように言った事はないんだが、いつも挨拶をする。実親からの教育が良かったのだろうか。凄く良い子であるのは間違いない。
それなのに、こんな数日も子供と離れて心配にならないのだろうか。
早く比奈に聞いてみよう。
「すみません、またお邪魔します」
「良いの。あの子に用なのよね。でも……ちゃんと聞いてくれるかしら?」
ん? なんだ? 表情が暗く……
「何かあったんですか?」
俺が聞くと、言いづらそうに比奈母は俯く。
「あー……実はあの子、ちょっとあれから引きこもって自分の部屋から出て来ないのよ」
「え」
「良かったら哲平君からも言って貰いたら……あ、でも逆効果かしら。でも他に方法も思いつかないし」
マジか……あの比奈が? いや、でもよく気を使う奴だ。仕事の中で疲れていたのかもしれない。今の世の中は理不尽だらけ。
俺は相手の事も考えないで……バカだったな。
「少し、話をさせて貰っても良いですか?」
「……えぇ、お願いしてもいいかしら?」
「はい」
比奈母は、どこか申し訳ない様に眉を八の字にして微笑していた。
「おとーちゃん?」
「行くか、メマ」
俺はメマと一緒に、昔から知っている比奈の部屋の元まで行くのだった。
その扉には掛札が掛かっている。掛札には『比奈の部屋』と書かれており、端にはウサギの絵が描かれている。
懐かしいな。昔から何一つ変わらない。
「また来たの? 幾ら言われても出たくないから」
俺達が部屋の前で立っていると、部屋の中から声が響く。比奈の声だ。
「比奈おねーちゃん! こんにちはー!!」
あ。
「え……もしかして哲平さんの子供の……」
「メマだよ!!」
「て、て事は……!!」
「あー、この前ぶりだな。比奈」
そう言うと、中からガタゴトと何か物が落ちた様な音が幾つか聞こえた後、数秒の沈黙が続いた。
そんな沈黙に耐え切れず、俺は比奈へと話し掛ける。
「その……だな。比奈母から話を聞いてな。引き篭もってるって……ごめんな。お前の事何にも考えてなかった」
「え……母からって、ぜ、全部ですか!?」
全部? いや、まぁ、この前会った時から引き篭もってるんだろ?
「あぁ、聞いた」
応えると、また扉の中で物音がしてくる。
そんなに驚く事か? まぁ、総合商社の営業マンとして働いている比奈の事だ。引き篭もってるって事を知られるのはそれなりの事なのだろう。
だが、そんな仕事場で何かあった……。
「比奈、その、人生には色々な道があるんだ」
返事は返って来ない。
俺は続けて言葉を続けた。
「俺はその道をなるべく後悔のない様に進んで来た……まぁ結局後悔する事はあるが人生は取捨選択だ。何にを捨てて何を得るか。比奈は何を捨てて何を得る?」
「……もし、もし捨てたとしてもそれが手に入らなかったら?」
今までに聞いた事が無いような、弱々しいか細い声で比奈が聞いて来る。
「その時は他に得られる道を探す。後悔する事はあるって言っただろ? この子もそうだ」
「うにゅ」
俺はメマの頭に手を置いた。
「最初は驚きで戸惑っていたが、取り敢えず引き取る事に決めた」
「ちょっと待って。もう1回言ってくれる?」
言うと、比奈が尋ねて来る。
なんだ? 急に? 有無を言わせない圧を感じるのだが……
「だ、だから、この子は俺が引き取る事に決めたんだ」
数十秒の沈黙が訪れる。何か悩んでいる事の琴線に触れてしまったのだろうか。
「引き取る……て事はその子は哲平さんの本当の子供じゃ……」
「あぁ、一時的な親代わり
「おとーちゃんなの!!!」
「……一時的なおとーちゃんでな」
『いちじてきってなにーっ!?』と怒るメマを宥める。
ガチャッ
その時、何故か扉が開かれた。
「はぁ、なるほど。全部理解したわ」
出て来たのは、ボサボサな髪を後ろ手に纏め、口元にヘアゴムを咥えている比奈だった。その姿は前に別れた時よりも凛々しく、
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