第13話 あ……良いよ君。
『スライムをテイムしました』
普通に考えてみよう。これは夢なのではないだろうか。
俺は目の前の拳大の青い物体が飛び跳ねているのを見ながら思う。
スライムをテイム。
なんてファンタジーですか? どんなラノベですか? 何作目のドラ◯エですかね?
ぷるるんっ
「お、おぉ」
近づく物体に俺は思わずファイティングポーズを取って応戦する。
現実逃避はここまでの様だ。改めて……
「何なんだこの生物は!?」
俺は臭いゴミ小屋の中、声を大にして叫んだ。しかし、返ってくるのは生物の柔らかそうな優しい効果音のみ。
さて、どうしたもんか。
俺は冷静に顎に手を当て考え始める。
此処にはゴミを捨てに来た訳だが、何か蠢いているのを見た俺は害獣が入り込んでいると思った。そしてゴミ袋を寄せてみると青い玩具のスライムがあるだけで何もないと思ったのだ。それで恥ずかしげもなしに調子に乗った事を言って周りを見ていたら『スライムをテイムしました』って。
「あー…ダメだ。やめやめ」
牛同様、最近俺の周りではトラブルが絶えない。これまで山も谷もなかった人生、偶にはトラブルが続く事もあるだろう。これ以上考えても無駄だ。
そう思った俺は何もせず、青い物体を尻目に小屋から出ると、KIROへと戻るのだった。
KIROへと戻ると、メマが畑で水撒きをしていた。
「おとーちゃん! どこにいってたのー!!」
「おー、ちょっとなー。それよりも1人で水撒きしてたのか? 偉いなー」
「えへへ! みんながのどかわいたー! っていってるからあげたんだよー!」
そうかそうかー、メマは優しいんだなー。
俺はメマの頭を撫でると、メマは気持ち良さそうに目を細める。
なんだかんだメマは面倒見が良いのか、よく植物の水撒きを忘れない。皆んなと言い表しているのを聞けば、畑の枝豆達を友達か何かだと思っている節があるようだ。
少し不思議ちゃんなんだな。でもそういうの俺は悪くないと思う。
「じゃあ、そろそろ終わって牛の乳搾りするかー?」
「あ! するー!」
メマはジョウロを急いで置いて、此方に駆けてくる。俺はそんな可愛いメマの手を引き歩き出す。水の様な不定形な感触と、冷たい体温を感じながら牛の元へーー…
「はゆんっ!?!?」
視線を落とすとそこには青い不定形な物体……先程会ったスライムが触手を伸ばして俺と手を繋いでおり、俺は勢いよく手を離した。
「何これー?」
「め、メマ!! 迂闊に近づくとダメだぞ!!」
そんな! 指でツンツンしようとしたらいけません!!
俺はメマを抱き上げると、またスライムから距離を取った。
スライムという認識ならコイツは酸の攻撃とかしてくるかもしれないし、もしかしたら◯ラとかしてくる可能性もなくはない。変に近づくのはやめた方がいいだろう。
ぷる……
俺達が懐疑的な視線をスライムに送っていると、スライムは落ち込んでいると言わんばかりに一震えする。
……そんな態度取っても俺は騙されない。
スライムはファンタジーで言う敵。それを誰かしらが『テイムしました〜』って言っても信じられないのが普通だ。
あー、でもどうしよう。まさかKIROまで来るとは予想外だ。
俺はジッとスライムをよく警戒しながらよく見た。しかし、スライムはポヨポヨと上下するだけで何もしてこない。
………まぁ、実害がないなら放っておいてもいいか。
「おとーちゃん?」
「あー…いや、何でもないぞ。さ、乳搾りするぞー」
俺はスライムを放っておく事に決定し、牛の元へ向かった。
ンモ〜ッ
「おー、お待たせお待たせ」
「お待たせ〜!」
またも大きく鳴いて俺を出迎える牛を撫でながら、俺達はしゃがみ込んだ。
その瞬間。
「うっ!!」
「くさ〜い……」
鼻の奥が捩れる様な、強烈な臭いが俺達を襲う。
牛の丁度股間の真下。そこに茶色い物体が圧倒的な存在感を放ち、佇んでいた。
そりゃ、するよな。生き物だもの。逆に昨日の時点でしてなかったのが不思議な程だ。1頭の量としては多過ぎるし、臭過ぎる気もするが、違う環境に来て便秘だったのかもしれない。
まぁ、ポジティブに考えればこれも肥料になるし、牛の体調も良くなって一石二鳥だ。悪い事ばかりじゃない。
「あ! ポヨポヨ! だめー!!」
「あ! お前!!」
臭さにそっぽを向いていたメマが後ろを指差し叫び、振り返るとそこにはウチのメインであろう枝豆を消化? しているスライムの姿があった。
「そこから離れろ!そんなシュワシュワ消化して……ゴミ捨て場の時も………」
そう言葉を続けようとした所で、俺はそれを見てある事に思い至った。
「もしかしたらーー……」
「君、ウチのエースだよ。マジで」
俺はそれを鼻をつまみながら見ていた。場所はKIROの裏。
まさか、まさかである。
スライム、しかもゴミ捨て場、さっきの食事の仕方。何故最初に思いつかなかったのか。
「まさかウ◯コを消化するとは」
そう。このスライム、先程牛が出したものを消化しているのだ。
ぷるっ
ものの数秒で消化し尽くしたスライムからは、先ほどの強烈な臭いはして来ない。
最高だ。
俺が思わず親指を立てると、スライムも触手で同じ様な形を作る。しかも、意思疎通も出来ると来た。
これは……決まりだな。
「お前、此処に居ないか?」
ぷるっ
問い掛けると、スライムは即答して飛び跳ねた。これは肯定って捉えていいんだよな?
「その、じゃあ、これからよろしくな!」
そう言うと、スライムは此方に近付いて来る。
「あ、待って。お前、取り合えず待機」
俺はジェスチャーでこっちに来ないように伝える。
取り敢えずはトイレ小屋が出来るまで庭で待機ね。べ、別にKIROに入れたくないとか、そういうのじゃないからな? メマに近づかせたくないとかでもないから安心しろよな。
…………。
「いや、ほんとごめん。でも毎日様子は見にくるから」
俺はエースに親指を立て、メマと牛の元へと行くのだった。
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