第11話 大きくなりましょう
竜崎のおばちゃんの飼育小屋に来ていた俺達は、おばちゃんが言うキラキラした牛乳の試飲会を行おうとしていた。
「これが今朝哲平のとこの草を食べた牛の牛乳だよ」
「おぉ……!!」
俺とメマのコップには純白にキラキラ光る牛乳が注がれる。
昔を思い出すな。竜崎のおばちゃんに牛乳を飲まなければ大きくなれないって、飲みたくなくても飲まされたもんだ。
「いや本当にたまげるぞ。俺達も飲んだが腹が痛くなるまで飲み続けてた」
俺が注がれた牛乳を見ていると、心配しているのか源さんが話しかける。
別に不安で見ていた訳ではないのだが……それ以上にある期待が俺の頭にあるから見つめていたのだ。
このキラキラ、枝豆の時とよく似ているのだ。枝豆もキラキラはしていたが、味は最高だった。
てことは!!
「……うま~」
牛乳を一息に全部飲み切った俺は、その味の余韻に浸る。
適度な甘さに、牛乳特有な風味の濃厚さ。採れたてだからという理由だけでは説明出来ない美味しさだ。
「っ……っ……!」
メマよ、鼻の上まで牛乳が付いているぞ。だからコップの中に鼻まで突っ込むんじゃありません。
「だろ? どうなってんのか詳しく教えて貰うよ」
竜崎のおばちゃんと共に源さんが問い詰めて来る、がーー
「いや、そんな事言われてもなぁ」
枝豆ですら何故あんな事になっているのかすら分からないのに。
「哲平でも分からないのか」
「困った……」
「困った? 美味しい牛乳なら問題ないと思うけど?」
美味しい牛乳ならもっと売れ行きが良くなると思うんだが。
そう思っていると、竜崎のおばちゃんは大きくため息を吐いた。
「哲平の土地の草を食べたのは1頭だけ、美味しい牛乳と普通の牛乳で差があったらダメなんだよ……」
なるほど……それだけ美味しいってなると、そっちの売り上げだけ上がって普通の牛乳の売り上げが上がらない。もしくは低くなるかもしれないって事か。
「なら混ぜれば良いんじゃない?」
「それもダメだよ、味が違い過ぎる。この些細な違いが客を遠のかせるかもしれない」
「うーん……」
どうしたんもんか。
「おかわりーっ!!」
そんな中、メマがコップを掲げて叫んだ。
それを見た竜崎のおばちゃんは、ニコッと笑った後にメマの頭に手を置いた。
「美味しかったかい?」
「? すごいおいしかったよ?」
「そうかい……」
そう言って竜崎のおばちゃんは一層笑みを深めた。そして、近くに居る牛に手を置くとこちらをぐるりと振り向いて言った。
「アンタにこの子をやる」
「え? いいの?」
「哲平の子にしろ、ウチの子にしろ、そっちの方がお互い幸せだろう?」
竜崎のおばちゃんが優し気に言う。
てことは、その牛からあの美味い牛乳が採れるのか。
「毎日この子達に美味しいもの食べさせてあげるんだよ?」
「本当にいいの? 牛1頭って結構の額じゃない?」
確か気になって調べた時、200万ぐらいした気がするんだが。
俺が聞くと、竜崎のおばちゃんは呆れる様に笑った。
「仕方ないさ。この子はもうあの草しか食べなくなったしね。それに哲平もその土地でカフェもやってるんだろ? 他の所だったらカフェの外に牛を飼ってれば話題になるんじゃないかい?」
確かに。あそこの草でいいなら食料費は掛からないし、美味しい牛乳が飲めるなら万々歳だ。飼育小屋を作らないといけないから大変だけど……
俺はチラッと源さんを見た。すると、親指を立てて頷いた。
ありがたい……。
「あー……なら、貰っておくよ。ありがとう、おばちゃん」
「そうしな……ただ、もう私もおばちゃんって歳じゃないよ。せめてトメさんって呼んでおくれ」
はは、もう十年以上前だから……だけど、そうか。
「じゃあ、改めて……ありがとう。トメさん」
「いいんだ、カフェが開いたら知らせるんだよ」
トメさんは恥ずかし気に顔を背けるのだった。
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