第19話 祭りのあと

 年末が近づく中、アヴァターラ号は平常通りの哨戒任務に就いていた。交代時間の十分前になってハル艦長が艦橋に上がってくると、ヴォロス副長はいつも通りの落ち着いた口調で驚くべき発言をした。

「ハル艦長、聞きましたか?あの首都暴動を書いたロジカ記者の記事が年間報道賞の記事部門で最優秀賞に選ばれたらしいですよ」

「ああ、そうなんだな」

 ハル艦長はそう返事をしてすぐに、驚きのあまり問い直した。

「何だって、ロジカ記者の記事が年間報道賞を!?あの首都暴動の記事が?」

「ああはい、彼の撮った報道写真も数枚写真部門にノミネートされていたようです。まあそちらは金賞止まりでしたが」

 ハル艦長は驚きのあまりしばらく絶句してから、ヴォロス副長に返答する。

「凄いじゃないか、あんなことがあってもめげないとは大したものだ」

「そうですね。それで引き継ぎ事項ですが……」

 ヴォロス副長は何事もなかったかのように引き継ぎ事項を述べ始めた。ハル艦長は呆れ顔をしながらも、引き継ぎ事項を確認していく。

「それでは確かに伝えましたので」

「了解。お疲れ様、ちゃんと休憩してくれよ」

「はい!」

 ハル艦長に敬礼して艦橋を出たヴォロス副長は、副長居室に戻ると日記帳を開いた。いつも通りに一日の総括を書いたあとにロジカ記者への最大級の賛辞を書き込むと、ヴォロス副長はゆっくりと日記帳を閉じてからベッドに入り、毛布を被る。

「静かじゃないか?」

 艦橋でハル艦長が問いかけると、士官達は揃って「いつも通りですよ」と答える。ロジカ記者が降りて静かになった艦内には慣れたはずだったのに、今日は久しぶりに寂しく思える。そんな日記帳の一文は、ヴォロス副長とハル艦長が心の底から感じていたことだった。

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硝煙の空中大陸 古井論理 @Robot10ShoHei

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