毒と嘘4
診療所から離れ、小腹が空いたと兼二の言葉に“ハッピースマイル”という家族向けのジャンクフード屋へ。二人席に腰掛け、見た目に反してホットアップルパイを食べる兼二に突っ込みたくなる和だが、それよりも見せ付けるように置かれている薬の袋に目が行く。
「兼ちゃんは何処が悪いんですか」
どうせ普通に言っても個人的なことは話さないだろう。堅苦しい性格からわざと砕けた言葉を口にする。それに絶句されるも二口食べ“軟膏”と言われた瞬間――笑い死にそうになりテーブル丸に伏せ。ゴンッと勢い余って額をぶつける。
「ブブッ……兼二が軟膏」
「言っておくが部下のだ。俺の仕事を押し付けたお詫びとして処方してもらい取りに来た。小柳に通ってると聞いてな。お前のヘットフォンから盗み聞き、軽くだが接客・接待を見た」
真面目な声と態度で期待していたモノとは真逆な回答に“面白くないな”と顔を上げ、少し意地悪な妄想を口にする。
「あら、部下なの。大変だねぇ。その独身? 奥さんいるなら塗ってもらってたりして」
男前提で少しだけエッチな話。それに睨まれ力強く足を踏まれるも和は知らんぷり。
「はいはいはいはい。すいませんねぇー」
ヘラヘラと受け流すと
「それを言うなら内科ではなく肛門科」
とても大きな地雷。
不思議と妙に白ける。
「えーっと、兼二。なに想像したの」
問いかけに鼻で笑うと立ち上がる。
「さぁな、言わなくても分かるだろ」
その後、やたらと勝からメールが届く。自分の服を着させた京一を人形のように遊んでいるのかツーショト写真。仲いいね、と悪ふざけで送ると“助けてほしいだろ”と見慣れた店舗の名前。勝行きつけのレコード屋に足を運び、ナイスボディーなモノクロ写真の挑発的なジャケットを手に取る。中はレコードではなくUSBメモリー。
「あんら、意外と近くに居んのねぇ。嬉しいよ、勝」
隣に居る兼二にジャケットをマジマジと見せ“覚えな”と渡すふりして中身を抜き取る。
「これ、勝の大好きな曲ね。洋楽だけど聴いてみると面白いのよ。聴く? 借りられてるけど」
言われるがまま兼二は手に取り興味無さそうな顔。洋楽でアルファベットが上手く読めないか。眉間にシワを寄せ、スッと知らん顔でしまう。
「あら、年上との付き合いは大切よ」
「仕事だけでいい」
「そんなこと言って俺のこと気に入ってるでしょ。じゃなきゃ、担当変えてまで来ないよね、兼二」
ポンッと頭に手を乗せると振り払われ、お前なんて、と言われるも言われる前に、嫌いだ。でしょ、と意地悪な笑み。
「ほら、行くよ。此処の近くにネットカフェあったっけ? おじさん、そう言うの分からないんだよな。道案内して刑事さん」
*
駅周辺にあるネットカフェ。
狭い個室を二人で無理矢理入り、慣れた手付きで兼二がパソコンにUSBを差し、ファイルを開く。
中にあったのは『○○大学病院月別:死亡患者数』『小柳先生出勤日:クリニック・○○大学病院』……と写真を添付したExcelやWordで手作りしたモノ。読みやすく纏まっており、コピーする手間もなく二人は画面に夢中になる。
【患者死亡者名簿・殺害一覧】
・
死因:毒物混入
・
死因:謝った治療薬投与
・
死因:治療薬過剰摂取
・
死因:精神異常からの自殺
・
ズラリと過去数年のも合わせ見ていると和は画面を指差す。
「待った。なに、この並び順。勝、めんどくさくてサボったな。あいうえお順にした方が読みや――ん? 兼二、マウス貸して」
何かに気付いたか。一番上まで戻し「あ」と名前の頭文字を言う。
“あ”“か”“さ”“た”“な”
「兼二、ちょっと名前メモって。至急、例の大学病院に問い合わせて患者の確認」
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