毒と嘘3
行ってみると葉加瀬診療所より一回り大きい。駐車場も建物も外観印象がとてもよかった。高齢者の姿もあるが大半は子連れが多い。イケメン先生と噂が流れているのもあるだろう。変におめかししている患者が目立つ。
「少し話聞いてみるか」
中に入ろうとするも子連れの多さに撤退。仕方なく話聞きやすそうな人が出てくるまで待つことに。
スマホを耳に当て電話のふりして向かいの歩道で待っていると数分しないうちに大学生らしき女性が出てくる。声かけ話を聞くと“不満なことはなく良いところ”だと言うがそれにしては少し不満げだった。
「ガクちゃん、ちょいと聞きたいんだけど」
患者の入れ替わり時間に空いていた小窓から呼び掛け手を入れる。渡したのは不満げな女性から貸してもらいコピーを取った領収書。か弱い手が紙を取り、松田さん、と呼びながら数秒で紙飛行機となり出てくる。
高い――。
と、物凄く小さい文字。老眼で見えねーよ、と言いたくなるもゴクリと飲み込み、コンコンッと呼ぶ声にもう一回投げ込むと『昼』の一文字にその場を立ち去った。
午前の診察は十二時まで。午後は三時間からと時間がある。その間に話す気なのだろう。BMXを飛ばし、少し離れたショッピングモールにあるドーナツ屋でプチドーナツと紅茶を飲みながら時間潰し。
「小鳥遊さん、どうぞ」
遊びか。全開となった窓から顔を覗かせ、よいしょ、と入るとわざと名前を呼ばれる。おにぎりを食べながらパソコンを動かし、診察のふりして依頼の話。
「さっきの紙ですが……やはり何かの点数があるかと。医療事務なので普通のとは少し違い点数で決まるんですが」
「ふむふむ。おじさん、そっち分かんない。話について行けなくてごめんね」
「別にいいんです。僕は小鳥遊さんが悪い人を懲らしめて更正や地獄に落とすのを見るのが好きですから。これを証拠に何か掴んでボコってくれれば良いんですよ」
平然と言っているが重い。和は口で言わないがガクは崇拝者に近いと感じていた。
「こら、崇拝者みたいなこと言わないの。ガクちゃんは命を守る人なんだから。ダメよ、俺らにみたいな輩に染まっちゃ」
「僕は裏の人間なので小鳥遊さんのような強い方が居ないと滅んでる分際ですから。頼りにしています」
「ガクちゃん」
メッと少し叱る。
「僕は出来るなら貴方達のような仲間が欲しかったですね。勝さんやその関係者の方が羨ましい」
「いやいや、お得意さんの時点でお仲間よ」
「そうですかね。では、こんな雑魚な僕ですがお役に立てるかは別として差し上げます」
トンッと机に小瓶に入った液体。
「トリカブトの毒です。毒を持つ植物が好きでして良かったら使ってください」
和はハンカチを取り出し優しく包み込む。トリカブト、と真剣な顔で見つめ何も言わずにジャケットにしまう。
「頂いてはおくよ」
「もし、それが使いづらいなら薬品を過剰摂取や投与を止めてしまうのが殺しやすいかと。では、そろそろお時間なので」
窓から外へ抜け、しばらく窓の横の外壁に凭れる。
「勝が居れば軽く殴り合って診察受けられる気がするんだけどなぁ」
寂しいわけではないが頼れる相手がいない。人脈が広ければ迷うことないが今回は少し厳しくも感じる。
もし、少しだけズルをしたとしたら――金額発生するが確認は出来る。悪かれ良かれの保証付きの和だからそこ許される行為。
「はぁ……頼るか。集え、悪友。ポチッ」
歩きながら慣れたようにスマホで文を打ち込み、画面をスライドさせとあるアプリをタッチ。
コミュニケーションアプリ『LINK』
SNSでは話せないことを話す趣味や仕事で知り合った悪の集まり。あまり過激なことを言うとBANされるため、可愛くオブラートに包むのがこのコミュニティーグループでの決まり。
『こんちゃ。おーい、可愛い悪友。この中で具合悪いけど病院行ってない子いる? 俺が支払うから調査手伝ってくれないかなぁ』
平日の昼間。仕事や昼休みと人により行動が異なる時間。女子禁制の年齢問わないグループのため観覧専門、積極的、行動派と様々で各自経験や経歴も異なる表面は良い子だが実は悪い子ばかり。
時間潰しでふらつくも返信はなく。十数分後に来るも“ごめん”の文字。やっぱり忙しいか、と諦めようと文を打ち込んだとき見慣れた名前が――。
『何故、俺に言わない』
それは、忙しいはずの兼二だった。
『あ、そっか。兼二も勝も京ちゃんも入ってたっけ。めんご、無視して。俺の中でチミ達に休み与えてるから』
いつもなら亀のように遅いが特別に早い。
『担当になるはずの事件を外れた。実に都合が良い。俺の元に妙な医者がいると何件か相談あってな』
『ひゃー怖』
『後ろ向け』
返信打ち込みながら振り向くと目の前に“のみくすり”と書かれた袋。それを退けると兼二が恥ずかしそうに笑った。
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