毒と嘘2
飲み物にオレンジジュース。スプーンとフォークも持っていってやると子供のように手に取り、仮面を軽く上げては丁寧に切り口へ。モグモグ、ニマッと言葉はないが口を見れば気持ちが分かる。うまい、そう分かるだけで和は嬉しかった。今にも追い詰められ、死にそうな顔をしていたであろうガクの表情が和らぐ。
「あ、ありがとう……ございます。とても、美味しいです」
「それは良かった」
腰掛け、和はホットコーヒーとショートケーキで空腹を満たしているとテーブルに小切手。
「今回の報酬金額です。雑草駆除を何件かお願いしたくてで……数件厄介なのが」
「いいよ。暴力団でもマフィアでも近所のクレーマーでもドンと来い。サツ意外はウェルカムよ」
手で隠すように被せる。
「では、一件目。僕が此処にいることに対して文句ありげな店員に何でもいいんで下してほしい」
スッと細い指で隣の席の皿を笑顔で片す若いウェイトレス。え、この子? と思わず二度見すると静かに頷く。何処が悪い子なのよ、と目で訴えると周囲を見渡し“全て”と言いたげな顔。
「ガクちゃん、超神経質。大丈夫よ。女性の人気の店に男性が入ればそりゃあ色々と女の子は思うわけよ。気になさんな」
ヨシヨシ、と落ち着かせる。和の行動に少し照れ、一瞬ツンとした表情になる。
「二件目、最近診療所の近くに
「へぇ、詳しく聞こうじゃないの」
コーヒーを飲み、ムシャムシャと食べるガクに和は目を向ける。食べるのに夢中で中々口を開いてくれないが生クリームをたっぷりつけフルーツを食べた時、ポロッと言う。
「駐車場や建物への落書き。患者からの不自然なクレーム。酷いときは患者に何かを吹き込み『小柳先生は正しく此方は誤診だ』と大喧嘩。高齢社会ですから気がかりに踏み込まれ、僕の治療はリスクが高いだの、薬を飲んでも良くならないだの……はぁ」
うんうん、とガクの言葉に頷く。
続けて――。
「病院の前に不審物や不審者を見かけるともお話がありまして、助手と事務員が襲われしてね。軽傷なんですが僕が悪いことに顔突っ込んでるんじゃないかと不満を言われ辞めました。
小鳥遊さんのことかと一時は思ったんですよ。でも、久々に会いましたし顔を見れば厄介ごとを頼まれているとこんな僕でも分かります」
「それはつまり、俺は今フリーだと分かるわけか」
「その通り。僕には戦う力はありません。ですが、家系が裏社会の人たちを診ていたことから貴方とは知り合えた。なので、此処は一つ頼ろうかと」
フルーツもワッフルもなくなり、残ったソースと生クリームをパクリ。
「その男、日替わりなのでクリニックに居ないときは大学病院にいるそうです。そこでは妙に患者の死亡数が多いと僕の中では思うのですが……」
「気になる?」
「クリニック経由で運ばれることが多く患者の多くは『見つかって良かった』と言っていますが僕は計画な何かだと思います。あの男、前科があるのでは?」
真面目な話にコーヒーを飲む手が止まる。寄りによって張り込み・聞き出し得意な勝の不在。ハッキング大好きで個人情報泥棒の京一も。兼二は子供誘拐・連続殺人事件の担当のため呼べない。一人か、と口が緩む。
「わかった、受けるよ」
カップを置き、小切手の金額を目にしてフッと笑う。医者だからかお得意さんだからか。かなり高額な報酬。胸ポケットにしまい、大切そうにポンポンッと叩く。
「では、よろしくお願いします。僕は変わらぬ日常を送りますので」
「あいよ。すぐには出来なさそうだから耐久戦になるかも。覚悟してね」
丁寧にクリームまで平らげ、ナフキンで口を拭うガク。珍しく仮面を外し、青くも黒い光無いでニコッと笑った。
「じゃあね、ガクちゃ~ん」
テイクアウトのショートケーキをプレゼントし、和は見送るとスマホで兼二の番号を開く。しばらく見つめ、子供のはしゃぐ声や親の声にしまう。
「今回は俺一人で頑張るか」
軽く店を回っては事務所に戻へ。策を練りながらあっという間に時間が過ぎ翌朝。
勝がよく乗っているBMXを借り、二時間ほど休憩を入れながら葉加瀬診療所へ。
真っ白でこじんまりとした診療所。三台ほどの駐車場と明るく見せるための小さな花壇。撫子か。小振りで可愛い。入り口には数人並んでおり、八時過ぎなのに早いな、と感心していると背後を通る邪悪な気配に振り向く。だが、誰もいない。
「普通じゃないな」
見渡しているとガクからメール。それには地図が添付されており、開くと二十、三十分歩いたところにある小柳診療所のモノだった。
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