毒と嘘5
兼二がめんどくさそうに手帳を取り出すとスマホが鳴り耳に当てる。なんだ、と低い声で不機嫌に言うと無言で和にスマホを渡した。
『旦那、やっぱ休みいらねぇっす。なんか狂犬といると変に襲われそうなんでドア開けてくだせぇ』
ただでさえ二人でも狭い部屋。まさかね、とドアを開けると燃えてないタバコ咥えた勝とタピオカ飲んでる京一。
「困ってるみたいじゃねーの。お助けしようか、和」
勝のニヤリと悪びれた笑みとめんどくさそうで帰りたそうな京一のムッとした顔。無理しなくても良いのに、と返すとどうやら二人には索があるようで勝と京一は互いを見ては指をさす。
「旦那、怪我人必要じゃないんすか? いまっせ、此処に」
「糞探偵が殺られたふりして入院させれば話つくだろ」
大雑把なのか計画性ありなのか。良く分からない自信ありげな二人の顔。和は、そうだけどさ。医療ミスヤられちゃ困るのよ、と身を案じて反対か。兼二も珍しく和と同じく賛成は示さず、処方箋のときの対応はな、と文句ありげ。
「そういや、兼二。普通、他人の薬貰いに行くの出来ない気がするけどどうやったん? おじさん、メッチャ気になってたんだけど。まさか、同僚って女の子――」
場がしらけ兼二はマウスを操作する手を止めると顔を背け固まる。図星か。
「やだぁ、兼二。へんた~い。ナニソレ、まさか同僚のコスプレしたんじゃないよね?」
和の問いを兼二は無視。変な空気の中、葉加瀬診療所へ。診察中の合間を見計らって四人で窓からガクを見る。すると、気付いたのか水飲みながら顔を出す。
「あんね、ガクちゃん。俺一人じゃ無理になって皆来たのよ。んで、悪いんだけど大学病院に忍び込みたいから紹介状書いてくれない。この、やる気のない子が腹部差されて治ってもないのにブラブラしてるから入院させたいの。意味分かるかな」
和の言葉に、はぁ、と承知の溜め息。
「すぐには書けません」
「ちってる」
「ですが、貴殿方なら書かなくともすぐに出きるのでは。ほら、あの……」
と、怯えた目で勝を見る。
「あっ、勝ね。そーね。それが手っ取り早いか。はい、じゃあ勝。京ちゃんを軽くボコろ」
それを言うや少し前に勘づいたか。和は逃げようと忍び足する京一の腕を掴み、それでも逃げるようとする京一に兼二が胸ぐら掴み手本のような綺麗に背負い投げ。叩きつけられた衝撃で受け身どころか苦しそうな声と共に肺に溜まった空気を一気に吐く。肩が抜けそうになったか肩に手を添え、丸くなる姿に眉を下げる。
「兼二、年下の京ちゃんだよ。もっと優しくしないと」
悪く言いながら一切反省のない声。仕事仲間のはずなのに突如仲間割れしたようなやり方にガクは窓を閉め、勝はやっと消えたかと指の関節を鳴らす。
「旦那ら、酷いっすね……。確かに自分で推薦しやしたよ。でも、いくらなんでもヤりすぎやしやせんか」
「それ以上言ったら傷口にナイフで刺すぞ、糞探偵」
「なんっすか。さっきまでベッドで楽しそうにしてたくせに」
「あ゛ぁ゛? 覚えてねーなぁ」
勝の殺気放つ声と態度に勝ち目がないと判断したか。もういい、降参と京一は静かに目を閉じた。
*
「下野さーん」
京一が目を覚ましたのは真っ白な病室。少し悪いことしたなと思ったのか個室でテレビもあり、風呂もあり、トイレ付きと静かで嫌ではないマシな空間。
看護師の声にうっすら目を開け、顔を向けると彼よりも少し若い子か。天使のような優しい笑みにやや釣られる。
「なんっすか」
「良かった二日三日寝たきりだったので、先生呼んできますね」
小走りで部屋を出る看護師を目で追い、そんなに寝てたんだ、と痛む体に反抗するよう腕を布団から出すと傷と包帯だらけ。痛々しさに腕に力が入らず布団の上に落ちる。
勝達に手を出されたのは始めてではなく、たまに“プチ報復”とやり返される時もあるがつねったり、優しく蹴ったりの可愛いもので。病院送りにされるほどの乱暴なことは滅多にない。喧嘩し口論を飛び越え殴り合い以外は。
「下野さん、体調はどうですか?」
先程の女性の声とは違い、優しそうだが京一には裏ある声に聞こえる男性の声。顔を向けると白衣姿で爽やかイケメンの先生
なんか見たことあるなコイツと軽く睨むも海斗とは面識はなく怪しまれない。
「あ、特になんも。まぁ、言うとなれば……早く退院したい、です」
「それはもう少し我慢してくださいね。前の傷が開いたようで駆けつけた時に血流してたと聞いてますから。(小声で)自殺か何かですか? 此処の大学病院には精神科もありますので希望でしたら紹介しますよ」
客引きじゃないが取り込もうとする妙な感覚に京一は遠慮気味に慣れない敬語で返す。
「だ、大丈夫、です。仕事でしくっただけなんで……まぁ、ちょっと無理なら頼るかも(小声で)っす」
「そうですか。何かあったら言ってくださいね。良い先生なので。(笑顔で)では」
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