詐欺師2

 翌朝。

 よく眠れずデスクに伏せ、羊が――と数えているとスマホが鳴る。勝から『裏アポ取った』と連絡だった。


『主犯じゃないが代理的なヤツ。たどり着くの大変だったわ。感謝しろよ』


 あんがと、眠気に襲われながらも返事を返す。だが、和の中では話を聞くだけでは物足りず、ゆっくり顔を上げ目の前にあったカッターナイフを見つめた。


 九時頃。

 待ち合わせに合わせ和が事務所を出るとバイクに股がり、行こうぜ、と勝がヘルメットを投げ渡す。危なげに受け取り、そんな歳で一人じゃ嫌なのか、悪戯半分嫌な言葉を言うと、退屈なんだよ。恥ずかしくも寂しそうな声に笑う。仕方ない、とヘルメットを被ると勝の視線が和の左手首。何十にも包帯が巻かれているが赤い液体がじんわり染み出ていた。

 バイクを走らせ、待ち合わせ五分前に目的地に着くと遊園地のゲート前に男女二人組。見た目はわたあめカップル。だが、妙な気配を感じ「勝」と背を押す。


 話だけじゃ収まりそうにない。

 だから、少しだけ時間を稼いでくれ。


 そう耳打ちすると勝は二人の元へ、和はゲートを潜った。

 耳に入るは楽しそうな子どもの声。明るく楽しげな小さな悲鳴はこの時の和には不快だった。だが、園内最速のジェットコースターから聞こえる悲鳴は実に心地よく、彼の殺意を強める。

 パシャリ、とジェットコースターを背にキス顔で勝にメール。何時、と返信に頭を悩ませ、試しに乗るか、と並ぶ。しかし、異音のためメンテナンスをさせていただきます。お客様にはご迷惑をお掛けします。その言葉に和は薄く笑った。


 メンテナンス――使えそうだと。


 メンテだって、とメールを送り、和はスマホをしまうと優先手乗れると配布された整理券を胸ポケットへ。整備士呼んできます、とスタッフが小走りでバックヤードに向かったとき――和もさりげなく後を追い、気絶させようと背後から首を絞める。


「悪いねぇ、若いの」


 服を奪い、スタッフをバックヤードの物置へ。スタッフの携帯を拝借し整備会社の電話番号を見つけ呼び出す。


 いつもお世話になっております。

 わたくし――と。


 メンテナンスを終え、つなぎ服に工具片手の整備士に変装した和。やれやれ、と疲れた顔してバックヤードに戻る途中、ターゲットである男女とソフトクリーム食べながら話している勝と目が合う。立ち止まり電話が来たふり。もしもし、とスマホを耳に当てた。


「なぁなぁ、お二人さん。ジェットコースター好きだったりするか?」


 その言葉に勝が近づき通り過ぎる寸前――勝は手を後ろにやる。大きな手に整理券を渡し素早くポケットへ。何もなかったように前の二人に駆け寄る。トイレ行ったときさ、と渡す姿に和は微笑を浮かべ、ツバを握り帽子を深く被った。


「お待たせしました~。ジェットコースター再開します」


 運営再開したのは停めて二時間後。

 噂を聞きつけ、ジェットコースターの待機場所には行列。服を着替え、スタッフに扮した和は、いってらっしゃい、とで乗車する客に手を振る。二、三回発車させ、目の前にターゲット。


「三番目にご案内です」


 如何にも優しい声で場所を指示するも和の本心は真逆。話を聞くよりも裁きたくて仕方なかった。


 数分後。

 ターゲットが乗り込む。レバー確認しますね、と和は安全レバーのを丁寧に一つ一つ確認。あ、と落とし物のふりして屈むと隠し持っていた小さな工具でネジを緩ませ、さりげなくナイフで微かにベルトに切り込み。

 大丈夫そうですね、と笑顔で対応すると「(地獄に)いってらっしゃーい」とスイッチ担当のスタッフに合図。ガタンッと音を発て動き出す。それに和は耳を澄ませる。

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