詐欺師3
静寂――。
梯子を上るように何メートルもあるレールを音を発てゆっくり登る。だが、突如落下し喉から絞り出す恐怖に満ちた声と裏腹に金属が砕け、ガシャンッと不安にさせる甲高く不快な音。外から頭に響く恐怖すら越えた絶望的な悲鳴が飛び交う。
突然の緊急停止と異常を知らせるアラーム。スタッフは対応に追われ、場が乱れた瞬間――和は満足げに裏口から姿を消した。
「こえーよ。こえーって……こんなの誰も考えねぇだろ」
ジェットコースターは360度大回転する大きなレール。一つ目を越え、二つ目を終えた寸前でジェットコースターは止まっていた。
レールには肉眼で分かるほど斑点模様の赤い液体と引き摺ったような痕跡。酷いところで肉片。
五台ほど連結したジェットコースター。そのうちの三台目が大きく左に倒れ、乗っていた男性の頭部から肩にかけて形がない。レールに削られたのだろう。すりおろし機でおろされた様に骨の髄までグシャグシャ。後ろのカップル含め四人は返り血で赤く染まり、四列目の女性は泣き叫んでいた。
二人乗りが五台となると十人だが一人姿が見えない。よく見るとベルトが千切れ、まさかと少し動くと最初の落下ポイントにバラバラに散った“それ”があった。
「そんな怖い顔しないでよ、勝。咎人を裁いただけ」
そっくり振り向くと普段気に身を包み、満足げな邪悪な笑みを浮かべた和。和は普通に笑うがそれとは違う嬉しそうな顔は勝でさえあまり見たことない。
「ごめんね、聞き出すのに殺しちゃって。ナイス回避だよ。じゃなきゃ、勝も死んでたかも、なんて」
フフッと悪気のない笑み。さすがに勝も、やり過ぎ、と言いたいが口を開くも和の楽しげな時間を壊したくなく黙る。
「(嗤って)あれ、マジでビビってる?」
大きく手を広げ、ギュッと優しく勝を抱き締める。頭に手を乗せ。そのまま包み込むよう受け止めると、ごめんごめん。怖いこと言ったね。でもさ、殺すならとっくに殺してるし、俺は簡単に手放す気はないよ、と耳元で囁く。
だって俺ら――元殺し殺され仲じゃん。
和の言葉に勝の目に影が掛かる。離せよ、獣のような鋭い目付きでガン飛ばす勝に笑顔で一言。
記事、書こっか――。
とある裏SNSにて。
【報復事務所@専属記者】
『家族に人気の○○遊園地にて事故。男女二人が死亡。メンテナンスミスか、確認ミスか運営側に問う。現在、警察が詳しく調査中。(写真二、三枚目掲載)』
*
急遽、園外に出され何もなかったようにバイクで帰宅する二人。だが、そこに二人に投げ掛ける言葉。
『旦那、狂犬。自分の声聴こえますか? 聴こえんなら加勢お願いしやす。ちょいとしくじりまして』
「あ? どこよ。糞探偵」
勝が今にも暴言吐きそうな声で返すと息切れた声。
「遊園地最寄り駅の付近の商業施設。旦那ら近いっすよね。デカイ場所に行くと監視カメラやシステム。旦那だけじゃ不安だったんで仕事ついでにやってたら――っと」
突如消えた声にバイクを飛ばすと駐車場手前で勝が「先行くわ」と飛び降り駆け出す。和も雑に停め続くが――勝の方が身軽で足が速く、追い付かない。
「うわっと……ごめんな」
勝は歩く女性にぶつかりそうになりながら避け、何処だ、と声を荒らげる。それに周囲の人が怖がり距離が開くも気にしない。三階から見渡せるだだっ広い四方向にある広場。早く言え、と焦り見渡すとドンッと不意に突き飛ばされる。
うっ、と籠った声。
受け身を取り、なんだ、と目を向けると服が乱れ片腕が脱げかけた京一の姿。
「何してるんすか、糞記者。突っ立ってたらあぶねぇーすよ」
痛みに顔を歪ませ、掠れた声で言う。腹部は真っ赤に染まり、彼の後ろには刺した茶髪の十代後半だと思われる放心状態の女性。カタンッと血に染まった果物ナイフを落とすと、ごめんなさい……ごめんなさい、とその場に座り込んだ。
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