詐欺師1

 あれから特に何もなく、稀に雇われ人間レンタルサービスをやるも大した収益は無し。電話番で事務所にいるも気付けば夕刻。

 散歩でも行くか、とドアを開けると缶コーヒー飲みながらドアを開けようと手を伸ばす京一。直ぐさま背に手を隠し何もなかったように回れ右。足早に階段を降りるも、京ちゃん、と和の声に真顔で振り向く。


 なんですかい、和の旦那。

 そんな目をしていた。


「珍しいね、どしたの?」


 事務所近く駅隣にある魚料理が有名な居酒屋。帰宅ラッシュでほぼ満員だったが運良くカウンターが空いており、二人腰かけ、とりあえずビール。そう言いつつ漬け物と適当に刺身を頼む。


「最近好意ありそうで無い。それを誘った犯罪が流行ってるんっす。多いんすよね。旦那のレンタル業とかSNSで出会った人とか」


 まぁ、良くあるわな。和はテーブル置かれたビールをゴクッと飲む。


「で、旦那って何回離婚して。振られ、振ってるんですか」


 ほら来た、と顔を背け肘で脇を打つ。苦しそうな声をわざと無視。気晴らしにタバコを取り出すも、禁煙です、の張り紙に手を止める。


「さーせん。怒らす気はなかったんすけど大金取られた、痴漢だのうるせーんすわ。“出会い”アプリらしいんすけど。本社は若者集う交差点のある駅近辺っす。怖い広告車いるじゃないっすか。あれっすよ。んじゃ、ねーがいです」


 軽食を済ませ、ごちそうさん、と外に出るとタピオカドリンクを飲みながら歩く勝とバッタリ会う。バイバイ、と京一とお別れ。


「和、アイツと飲むなんて珍しくねぇ?」


「まぁね。ちょっと案件もらったからさ」


「へぇ、どんなのよ」


「俺の仕事に響くやつ」


 へぇ、と止めた足を動かす。


「そういや、ポストに分厚い資料あったぞ。多分糞探偵が俺ら用に集めた資料だろうな。

 被害者の名前、被害項目、SNSのアカウント、何かと登録番号とやり取りしたUSB記録」


「京ちゃんは仕事早いねぇ」


 緊張感もないダラダラした会話。ビル一階のポストから頭を出した分厚い茶封筒を手に取り、見ながら事務所へ。

 内容からして“相談所”とはかけ離れた亀裂な行為。パートナー成立・満足度百パーなど企業の嘘チラシ。中には“金無いから”と経験談もあり被害が百万。

 これだけ証拠があれば捕まりそうだが、何人も騙しても捕まらない理由。それは和は知っていた。


「太刀悪いなぁ……レンタル業絡んでる。しかも、かなりの悪と見た。あぁ、最悪」


 資料を雑にしまい、テーブルに投げると舌打ち。


「腹立つ。勝、今からコンタクト取って。俺の名前でいいから手配して」


 半ギレか。いつもより声が低い。いいぜ、と勝は和のジャケットからスマホを抜き取ると慣れた手つきで画面をタップした。

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