動画配信3
ざわつき、注目が集まる中――和の肩に手が乗る。
「すみません。探偵の端くれなんっすけど、お話聞きましょうか。それとも、マジで警察呼びましょうか。にしては、お兄さんら腰引けてますけど探偵でもやな感じですかい? なら、変に注目浴びんのやめた方がいいっすよ」
和の背からヒョコッと京一。勝の時は一変荒くなる彼だが軽い口調で子供のようにモグモグとクレープを頬張る。
妙に白けた空気に男らは逃げ出すと、大丈夫ですかい。旦那。と京一が隣に立つ。
「京ちゃんがマトモに人と話してるのに俺、今感動してる。意外と若者口調ね。勝とは糞つくほど荒いのに」
嘘泣きしていると肩を叩かれ目を向ける。クレープを無理やり持たされ、手元を見ると素早く慣れた手話で『兼二、追わなくていいんすか?』と動かす。何か話したげな予感、そう悟った和は言う。
「京ちゃん、読唇術使うから口パクしな」
その言葉に手を止め、めんどくさそうに京一は口を開いた。
『旦那を餌にしたのは悪かったです。でも、兼二からは証拠を得るよう言われてたんで使わせていただきやした』
京一はスマホを取り出すと和に動画と写真を何個も送りつけられる。追い掛けられ、話し掛けられ、腕を引かれる“それ”らは今日だけのことではなかった。
俺から逃げられるなんて思ったら大間違えっすよ、と言いたげに親指を立て笑顔。
『此処左に曲がると閑散とするんで入居者募集のマンションの裏。そこ周辺人気薄くて痴漢やらナンパやら多発してるんっすよ。多分、兼二そこにいると思うんで“お仕置き”
京一の言葉を頼りに左に曲がり、閑散とした道。そこにある八階建てのマンションの裏を覗くと、ねぇ、と腕を掴まれ壁に押さえ付けられてる兼二がいた。
「此処、人気少ないから叫んでも来ないんじゃないかな。治安悪いって有名だし」
太股に手を伸ばし、スカートに手を入れる光景に兼二の目元に闇がかかる。お姉さん、肌綺麗だね、と触られ押し黙る姿に和は苦笑。隣の空き地に忍び込み、フェンスを見つけ飛び付きスマホを構えやり返す。
「うわぁ~正義面してた若造が女の子のスカートに手を突っ込むとか痴漢でしょ。見えてる? やばくなーい? ウケるんだけど」
スマホをビデオ通話にし無理やり京一と勝に見せながらも名演技。声も似せようと元気あり、若さアリの言葉遣いだが旗から見ればオッサンが一人はしゃいでるようにしか見えない。
フェンスを乗り越えようと足を上げ、そのまま椅子のように座ると、ほら笑えよ、と言いたげに映す。
「俺のこと散々バカにしてたけど、それもそれでアウトでしょ~。はい、キターッ高撮れ、皆観てる~それこそ痴漢の証拠だよね」
和の言葉に『きもっ』『誰か通報しろ』と勝と京一が野次を飛ばす。“テレビ電話”を“生放送”と思い込んだのか男達の顔が青くなり、兼二から手を離すと思いきや自棄糞か。
この女がどうなってもいいのか、と一人は兼二を逃げないように掴み、もう一人はナイフを首に突きつけるもそれは意図も簡単に宙を舞う。
「あら、怒らせちゃった。その人“女の子”じゃなくて“男”だよ」
え――、と男らの声が重なる。
「もう我慢の限界だ。お前ら現行犯で逮捕してやる」
兼二は真っ直ぐ上に蹴り上げた足を正面でナイフを突きつける男の頭に向かって踵を勢いよく振り下ろす。ボキッと鈍い音が響くもお構い無し。踏みつけるように頭に足を置き、色っぽくスカートを上げつつレッグホルスターから警棒を引き抜く。シュッと振り下ろし、ゆっくり後ろを振り向くとバトンのようにグルリと手首で回し嫌らしく持つ。
調教されたいのは誰だ。
喜んでやってやる、と言いたげな笑顔。
あまりにも恐ろしい形相に兼二を掴んでいた男は直ぐ様手を離し逃げ出すが――警棒が男の左側頭部へ。予期せぬ衝撃と反動にマンションの外観に頭をぶつけると気絶か。口だけ達者で呆気なかった。
柵を乗り越え、和が念のため男の脈を取る。よし、生きてるの声に兼二は警棒を縮め、実に爽快だった、と満足げ。
「お前のカウンセリングは眠くならず、心が踊る」
「いやいや、俺は普通に話したいのよ。それなのにお前らが個人的なモノを持ってくるからいけないんでしょ」
「話題作りだ」
「違うね、俺だから許されると思ってる」
スカートを下品に捲り、ホルスターにしまうとハッと見下す顔に和は真顔。仕方ない、と肩を竦める。
「はいはい、分かった。俺の敗け。今日はとことん付き合いますよ、
その後、兼二が女のふりして警察を呼び二人は確保。女装して痴漢やら客引きを誘い込む囮役として署では有名なのか、佐々木刑事だ、と駆けつけた警察内で盛り上がり和はそっと姿を消す。
あれだと当分帰れないな、と道を戻りキャラメイトに行くと水色の袋手に京一がアイスコーヒー飲みながら待っていた。帰りまっせ、と口パクで言いつつ袋を渡される。
『
受け取るとズシリと重く、それとは別に黒い洒落た薄い袋もあった。
「勝、帰ったよ」
明かりが無い夕日差し込む事務所に戻るとソファーに腰かけキーボードを打つ勝の姿。楽しそうに柔らかい表情。今日に限って良い記事が書けてるのか、邪魔できないな、と横を通るも手が伸びる。
「寄越せ」
その言葉に和は足を止めると、はいよ、と丁寧に袋を渡した。キャラメイトの袋ではなく黒い洒落た袋を鼻歌混じり中身を取り出し、ヒラリと表紙を捲るの鼻の下が伸びる。
それ何よ、こっそり後ろから覗くと女装した
「あ~サイコー」
抱き締める勝。目が点になる和。
「マジで
知っているのか。それとも、あえて知らない振りか。どう返したら良いのかわからず口が開いたままになると勝が振り向き、ニカッと歯を見せ笑う。
「
えっ、と声を詰まらすとドアから「邪魔するぞ」とスーツ姿の兼二と京一の声。目が合い答えられず、便所、と和はトイレに逃げた。
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