動画配信1

 日が浅く差し込む頃。事務所のドアが開く。そろそろ来る頃合いだろう、そう思った和はソファーに腰かけ客を出迎える。


「やぁ兼二、そんな怖い顔するなよ。あれはイレギュラーだったんだし、少しぐらい甘く見てくれたっていいのに」


 和は煙草を咥え、お詫びに、とビニール袋にこれでもかと詰め込まれたきな粉棒。


「ふざけるな。お前らの残飯処理死体処理をしたくて手を貸してる訳じゃない。此方も理由があって取引している身だ。勝手に暴れまわっては困る。守らないならバラすぞ」


 ドカッとソファーに座り足を組む。チラッときな粉棒を目にすると手を伸ばす。一瞬、踏みとどまるも素早く手に取る。


「バラす。なら、バラされる前に俺が殺せばオッケーだよねぇ。(笑顔で)俺はこう見えてちゃ~んと皆の後始末の考えてる。事故死、自殺――殺し方も指で折れないほど沢山。(嗤って)偉いでしょ」


 灰皿に煙草をトントンッと軽く当て灰を落とすと、火が怖いくせにカッコつけるな。兼二の挑発的な言葉に和は手を止める。目を細め、灰皿に煙草を押し付け火種を無理矢理消すと無言。

 カチッカチッと時計の秒針がいつもより大きく聞こえ、数分静寂に包まれる。


「警察が裁けないから俺達が裁いてる。それに何か文句でも? 警察に家族・・・・・を殺されて、誰よりも警察を憎んでる・・・・くせに」


 和の言葉にテーブルを蹴る。


「それは嫌みか」


 あぁ、そうだよ。と返しつつテーブルを戻す。ニコッと子供のように笑い言う。


「犯罪者を生む親も家族も犯罪者。友達も上司も部下も生み出したものは皆罪人。生み出した者は裁かれなければいけない。そんな法律あったら良いのに。そしたら、俺も兼二も気楽に話せそうなのになぁ。ほら、報復に手を染めた理由としては似てるでしょ」


 和は深々とソファーに凭れ、足をテーブルへ。堂々とした和の態度に兼二は唇を噛み、グッと拳を握るも緩める。立ち上がりきな粉棒片手に立ち去ろうとするも和が口を開く。


「俺らの目や警察の立場を省いて本当は日常で起きた小さな犯罪や犯罪予備軍を捌いてるのは誰かなぁ。勝がずっと言ってるんだよねぇ。“何処かの偉そうなヤツが警棒振り回してる”って」


「知らないな」


 兼二は無視しドアノブに触れるも和の「兼二の正義ってナニ」と呼び止める声が無意識に脳裏に響く。手が止まり、微かに振り向くと和の顎が肩に乗る。


「そろそろ“月一のカウンセリング”。たまには一緒に過ごさない?」


 その言葉に沈黙が続き、兼二が妙に頬を赤く染めた。


「(小さな声)正午、メイドの街で待つ。(やや強い口調で)勝は絶対連れてくるな。死んでも連れてくるなよ。(照れ臭そうに)アイツがいると洒落にならん」


「分かった。んで、なんでメイドの街?」


 ビルが立ち並び、平日と言えど電車が来る度に波のように押し寄せる人。それから逃げるように和は改札口付近の柱に身を寄せていた。少し蒸し暑くジャケット袖を捲ると視界に甘ロリータの女性・・が一人やって来る。

 フランス人形のような美しい青い瞳、肌白で輪郭がシュッと細く、ふっくらとしたピンクの唇。カールのかかった美しくも太陽の光で宝石のように輝くロングのブロンズヘアー。目を奪われ「お嬢ちゃん、良かったら俺と遊ばない?」。そう思わず手を取ると「○玉蹴るぞ」と発言に口が開く。


「パードゥん?」


 聞き間違え。もう一度、と片言な英語で返す。


「話せ、変態。さもなくばスタンするぞ」


 それは聞き慣れた声だった。信じたくない、素早く手を離し下から上へと舐めるように見る。


「け、兼二・・


 引き気味に言うとニコッと可愛い笑顔。


「アンタ、女装……好きなのね」


 地雷か。恐る恐る声を出すと嫌々返す。


「学生の頃、彼女に『小顔だしスタイル良いし女装してみようよ』と言われこの様だ。初めは嫌だったが、数年前から此方の方が効率が良いことに気づいてな。バカを誘い込める」


 可愛い顔してハッと見下す顔に和は苦笑。スーツに慣れ違和感あるが何処かで見たことある顔。

 勝のスマホ画面に映っていた女性のようで男性のような違和感を持つキスしている写真。まさか、と兼二を見ると目が合い、無意識に視線をそらす。


「パニエ穿いてんの?」


「あ゛、蹴り飛ばすぞ」


 派手で騒がしい街には似合わない。いや、都会だからこそか。すれ違う人々の視線がやや痛い。それを知って知らずか兼二は和の腕にしがみつき、無表情の無言で歩く。がに股ではなく女性らしい小股。和が早く歩きすぎているかやや小走りになる。


「何処いくの」


 目的が分からず引っ張られ、揺さぶられ、指差され。振り回されつつたどり着いたのはバラの蔓がアーチに絡み、真っ赤な花が客を出迎える。真っ白な外観の洒落た店だった。

 いらっしゃいませ、と甘ロリータの店員が笑顔で出迎え、兼二を見て頬を赤くする。


「可愛い~彼女・・さんですか」


 この言葉に和は真顔になるも兼二が裏声の何気可愛い声で「はい」と目元に影を浮かべる。その顔は“嫌”ではなく“勝ち誇った”表情。さりげなくドヤ顔していた。

 テラス席ご案内しますね、と気遣ってくれたのかバラが咲き誇る二席しかない席。


「此方がお勧めのティーセットです。デザートセットもありますよ」


 軽く説明を受けるも意味分からず、兼二にすべて任せる。和は羽ばたきやって来る蝶々に手を伸ばしからかい遊ぶ。

 数分待ってきたのはティーセット。ミントの爽やかな香り放つミントティーと小さなショートケーキ、ティラミス、チーズケーキが乗った白い皿が目の前へ。


「あら、本当甘いの好きねぇ。俺の食べていいよ。ほら、砂糖もあげる」

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