殺人ピエロ事件4
トントントンッと叩かれ振り向く。そこには、レザーグローブをした赤く染まった人差し指が頬を深く突く。
グラスの目に入ったのは、血だらけのギンガムチェックシャツ、黒スラックス、ベストと顔を隠すように笑顔仮面。百八十近くと身長が高いがビジネスシューズに扮した十センチのシークレットブーツ。細身で高身長、見下される感覚にグラスは言葉を失った。
「俺の
和の言葉に右手を上げると黒髪成人男性の生首。首切断部分は恐ろしいほど綺麗だが、ボタリボタリと垂れる音は生々しい。
「体は?」
和の声に今度は左手を軽く上げると頭部のないドクドクと血を流した胴体。それにグラスは声を上げると腰を抜かす。
「あれまぁ、人形壊れたのか。じゃあ、新しい人形買わないとね」
と、二人は一斉にグラスを見る。
「いやだ、いやだ、いやだ!! 俺がお前らになにしたってんだよ!! 何もしてないだろ」
腰を抜かしつつもどうにか立ち上がり、躓きながらも逃げ去る姿に和は勝に詰め寄る。やりすぎじゃない、と言いつつも勝は満足してないのか。頭部と胴体から手を離し、血だらけの手で仮面を覆う。
“かくれんぼ”
それを察したのか和は元気な明るい声で大きく言う。
「かくれんぼ。しようだってさぁ~」
イーチ、と言った瞬間――和のすぐ隣を何かが風を切り、グラスの肩に深々とナイフが刺さった。
痛みに声が漏れ、だらしなく倒れる。痛い、痛い、と嘆き、力抜こうとするもコツコツと早足で靴底を鳴らしながら勝は靴底で柄を踏みつける。ザクッと深々と刺さり、肉を裂き、骨まで達し、血が噴き出す。
ぐぁぁぁぁッ、と泣き叫び絞り出す声を発するも、その後は痛みのあまり声が出ず。ナイフも抜けず、必死に手で押さえ止血する姿に嗤う。震え、あっあ……と声を漏らす彼に勝は使い捨てカメラを向けた。
はい、チーズ。
共にカシャッと鳴るシャッター音。
「もっと笑えよ。ほら、人殺すみたいに」
ひぃひぃ、と荒い呼吸。彼の目に涙がなかった触れると舌打ち。仮面を外し、溜め息をつくと髪をかきあげる。
その表情は『愉しい』ではなく『辛そう』だった。
「我ながらダセェーよな。
この場に合わない発言にグラスは口をパクパクしながら何か言おうとするも出ない。それを見て、勝はヤンキー座りし優しくも冷たい目で見る。
「痛いか? そりゃあ、痛いよな。俺も同じよ、いてーの、いてーの。心がな」
胸に手を当てハッと嗤う。続けて。
「こんな俺が言うのも変だが『更生』しろ。そんで俺らみたいになるな」
ゆっくり腰を上げ、足を肩幅に開きリラックスしながら言う。
「本当は殺したいが、あいにく俺はガキに甘い。俺よりも少し下で同年代で年上なら遠慮なく殺せるのによ」
背を向け歩き出すと少し離れた場所にいる和に手を振る。すると、あっ、と思い出し立ち止まり一言。
「そのナイフ。俺がビビって顔面踏みつけた大道芸人の分。アイツの痛みは返したからな。お前がそれを受けてどう思うかは勝手だが少しは分かったか、小僧」
サヨナラ、と軽く手を上げ挨拶する勝に和はすれ違い様に言う。絶対俺の耳狙ったよね、その言葉に勝はバカ笑い。しらねぇーよ、偶々だろ。と答えるも目は笑ってない。
「帰ろうぜ、疲れたわ」
「それ賛成、おいとましよっか」
肩を組み、笑い歩くと外から聴こえるサイレンの音をBGMに。二人はその場から立ち去った。
『ただいま、○○ショッピングモールにて殺傷事件が起きており――警察は』
ショッピングモールの最寄り駅。周辺にあるビルにある大きなディスプレイに必死に実況するアナウンスの姿が映る。
『死者多数、怪我人多数、犯人は逮捕、罪を認め事情聴取中。詳しいことは分かっておりません』
通行人は足を止め、ざわつき。怖いね、危なかった、とこれから向かう人が言葉を漏らす。その中に服を着替え、紛れ込む二人。
「やぁねぇ~治安悪。おじさん怖いなぁ」
知らん顔する勝に和はソッと身を寄せる。勝は軽く和を睨むも無言。冷たいなぁ、と肘で突くと和のスマホが震える。スマホを取り出し嫌な顔。それを見た勝はクスクスと肩を震わせた。
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