ピエロ殺人事件2
予想外の言葉に返す言葉すら見つからず和は、会計してくるわ、と席を立つ。勝の様子を伺い、席に戻ると余程嫌なのだろう。指を絡め、肘をついては貧乏ゆすり。明らかに警戒していた。
「勝」
声かけても反応がない。トントントンッと机を叩き、やっと気づくもビクッと怯えた態度。なんだよ、と力ない言葉に和も調子が狂う。
「ねぇねぇ、勝」
勝の意思気が和に向いた瞬間、やや強引に胸ぐらを掴み引き寄せる。唇と唇が重なり、興奮か。それとも恥か。カッと互いの体が熱くなる。周囲はざわつき勝も目が覚め、バッカ、と手を上げるも不自然に止まった。
「で、さっきの続きなんだけどよ。場所変えていいか?」
いくつもあるショッピングモール内のトイレ。その中で一番空いていると噂のファッションエリアの個室。狭苦しく一人が限界のため便器の蓋に和が腰かけ、その膝に勝。
「小学低学年の頃の話でな」
「まだ、可愛い勝
和は膝を揺らし、上下させ遊ぶ。
「実は犯人が捕まってない、と言うか、誰も子供の証言なんざ聞いてくれなくてな。何となくだか
と、とんでもない言葉に和は髪を弄るふりして切っていた骨伝導イヤフォンの電源を入れる。
「それ、兼二に言った?」
「いや、一度家族や刑事にボロクソ言われてからはお前以外言ってねーよ」
その言葉にホッとするも和は妙な気配を感じていた。パスタ屋を出てから着いてくる足音。服装までは見てないが監視されてる感覚。気持ち悪かに勝に言うべきか迷う。
「そういう危ないのは俺じゃなく兼二に言いな。子供の頃とは言え、そういう奴って覚えてたりするんだぞ」
「いやいや、もう数十年前の話だぜ。今から『あのガキ』って殺しに来る方がこえーよ」
ハハッと勝は強がり笑うも悪魔のような笑いではなく、自分を落ち着かせるようなもの。こりゃあ、気付いてるな。そう察した和は右手で勝の目を隠し、全身で包み込むように抱き締める。
ベタベタ触るな、触って欲しいくせに嫌がる勝の耳元で誘惑するように囁く。
「友達が殺されたのってさぁ。前日か、数日前か。
その言葉に白け、勝がゴクッと喉を鳴る。なんで、と言いかけるが、その先は言わせない、と和はベルトに手を伸ばした。
――勝は俺の。
誰にも触れさせやしないさ――
不意をつく言葉に勝の体が一気に熱くなる。首筋にキスや服に手を忍ばせ軽くやり合うつもりが我慢しきれなくなったのだろう。嫌らしい声が度々室内に響いた。
火照った体を冷まそうとトイレ前にある自販機で炭酸をガブ飲み。プハァッと乾いた喉を潤すと同時にゲップ。
「勝」
怒んな、と和は勝に親指を立てる。その表情から恐怖はなく、いつもの彼に戻っていた。気分転換に服を着替え、同姓カップルのように手を繋ぎ歩く。この場にいない二人に何か土産を、と雑貨屋にいると遠くの方から悲鳴が聞こえた。
「誰か助けて!!」
掠れるような必死の声。二人は三階から一階を見渡すと血だらけの人が一、二、三。負傷しているのか引き摺り、痛みに倒れ込む人もいた。そんな彼らにトドメ刺そうと真っ赤なナイフを振り上げたのはピエロ。パスタ屋で見かけたあのピエロだった。
和が指笛で一瞬注意を引く。
すると、赤と緑の独特な瞳は和ではなく勝を見る。ニヤリと目が笑うとナイフを向け首を傾げた。その仕草に、アイツだ。勝は小さく声を漏らす。
「は?」
「ダチを殺したのって言いたいが……そんな若くねーな」とひきつり笑う。
お客様、避難してください。店員と注意喚起促す警報とアナウンスに二人は外へ出ようと駆け出した。此方です、と店員と残った客の集団の中。三階から外に繋がるドアを見つけ駆け寄るも何故か開かない。
店員が、バックヤードなら、そう言うとドアガラスに真っ赤な包丁がうっすらと映る。
「勝!!」
和の声に勝がダンッダンッダンッと軽く勢いを付けドアガラスを駆け上がる。三歩目を強く蹴ると大きくバク転。ピエロを飛び越える。顔が見えたか、あまりの嫌さに顔面を踏みつけドアガラスに向かって蹴り飛ばす。鈍い音に小さな悲鳴が飛び、着地しすると気付いたか。
白塗り無しの自分で塗ったと思われる黒鼻。シルクハット、白Yシャツにストライプのベストとスラックス、黒い手袋。一階で見たピエロではなかった。
「紛らわしいんだよ、お前」
ピエロは踏まれ、あいにく蹴り飛ばされた衝撃で頭を酷く打ち気絶。おーい、と呼ぶも返事はない。緊迫した空気が漂い、和が冗談を言う。
「あら、やだ。人殺――」
「してないわ」
和ませるはずが変に白ける。
「あ、やらかした感じ?」
「バッカ」
和と勝は床に落ちたナイフを見つめ、さりげなくピエロに近づくと肩に傷。どうやら刺され、自ら無理矢理引き抜いたのだろう。傷口がギザギザになっていた。ハンカチを取り出し傷口にグッと強く当てる。
「誰か手貸して。このままじゃ大量出血で死ぬ」
ざっと見、
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