Berberis japonica

「なんかさぁ。おまえらって、いっつも一緒にいるよな」

 それは、図書委員会の仕事の一環で、ポップ作りをしているときだった。教室の隅で作業しているところを、クラスメイトに邪魔された。

 にやけ面の、二人組。陽くんと同じ、サッカー部の子。それ以上でも、それ以下でもない。

「俺、見たぜ。葉月ってさ、しょっちゅうサッカー部の練習、見に来てるよな。こないだなんて、差し入れまで持ってきてさぁ」

「そうそう。いつからそんなに、仲良くなったんだよ」

 陽くんはちょっとムッとして、ハサミを動かす手を止める。からかわれていると思ったみたいだ。

「別に。委員会が同じだから、自然と話すようになったんだよ」

 素っ気ない、陽くんの声。ようやく使用が許可された、クーラーの空気に溶けていく。

「本当に、それだけかぁ?」

 クラスメイトの声。蝉。

「何だよ。何が言いたいんだよ」

 陽くんの声。蝉。

「だから! やっぱり、気があるんだろ?」

「はぁ? んなわけ……」

 蝉、蝉、蝉。

「いやいや、おまえじゃなくて。葉月の方が――」


 ――それは、衝動だった。


 軽口を叩くやつの手首を、思い切り、握りしめた。

 爪を立てて。血がでるほど。

「そんなんじゃないよ」

 思ったよりも、冷たかった。陽くんと違って、やつの腕は。

「ねぇ」

 ぼくは言った。もう一度。しっかりと。言い聞かせるように。

「そんなんじゃ、ないんだよ」

 ――そう。決して、そんなんじゃない。

 ただ、陽くんが嫌がることは、ぼくも嫌だ。

 そんなの、当たり前のことでしょ?

「わ、悪かったって……!」

 ぼくが手を離した瞬間、二人はそそくさと去っていった。気まずそうな陽くんと、ぼくを残して。

 ……ああ。驚かせちゃったかな、陽くん。

 だから、ぼくは謝った。「ごめんね、陽くん」って。

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