第28話:うちには悪魔みたいな妹がいる

「のう、らびーね。アウスタへのリンクを貼るにはどうしたらいいのじゃ?」

「それならここにリンクの共有があるから――」


 大昔は理解できないものや恐ろしいものを物の例えとして「悪魔」と言ったらしい。現代だと「単純に凄いこと」や「有効だけどいやらしいこと」に対して使ったりするらしい。

 それでいうとスマホは悪魔だ。もう悪魔も悪魔。大悪魔。超悪魔。こんな便利なものを渡されたら絶対に手放したくなくなるに決まっている。

 コエダさまもスマホの悪魔的魅力に憑りつかれてしまった一人だ。先日アップした動画の収益でスマホを手に入れると、結構すぐに色んな事が出来るようになっていった。分からないことがあればこうして放課後に喫茶店に集まって質問をしにくるし、頭戦国時代の割にスマホへの順応というか、興味が人一倍高いように感じた。

 スマホで何かするたびに感動するコエダさまを見て俺も「そうだよな。そうだよな」と深くうなずく。都会の人はみんな当たり前みたいな顔してスマホを使うけど、こんな多機能で便利な道具、他にないからね? 皆は俺の魔術で驚くみたいだけど、俺からすれば都会のあらゆる便利な物が驚きで仕方がないよ……。


「のう。ワシの住処だと動画の再生が遅いのじゃが、それは何故なのじゃ?」

「それはたぶん山奥だと電波が届きにくいからだよコエダさま。俺も帰り道で電波繋がらなくなるもん」

「ははー。そういうことか。ならばオフラインで楽しめるように予め動画をダウンロードしておく事が肝要か」


 全く同じ結論になってて懐かしい気持ちになった。

 まあこんな風に、コエダさまはもうそれはそれはどっぷりと都会の文化に浸かっている。


「コエダ。今度一緒に服を身繕いに行こう。山中も行きたがっていたぞ」

「服か。たしかに一々狐に化けたり戻ったりするのは億劫じゃし、いつもの姿では妙な輩に写真をねだられて鬱陶しいからの。山中というのは主の家の召使か?」


 そういえばコエダさまも山中さんも山中だ。紛らわしいけどコエダさまを山中さまとは呼ばないから山中さんは山中さんのままでいいか。いまさら名前で呼ぶの、ちょっと恥ずかしいし……。

 ちなみに山中さんは山中りんこって言う名前だ。お嫁さんにしたらりんこって呼び捨てにするんだろうなぁ。うへへ。


「おい聞いているのかメイジ」

「え、なに? ごめん聞いてなかった」

「週末コエダの服を買いに行くぞ。お前も荷物持ちで来い」

「土曜だったら午前中は用事あるんだけど午後でもいい?」

「構わんが、珍しいな」

「うん。村木さんに呼ばれててさ」




 新宿。それはビルが山のようにそびえ、人が川のように流れる大都会。奥卵はいい町だと思うけど、やっぱ新宿と比べると長閑だ。

 今日は村木さんに呼ばれて都庁の地下、対魔特別対策課及び秘匿課……所謂魔術協会の事務所にやってきた。

 扉が開いて姿を現したのは村木さんと、桐原さんを助けに行ったときに一緒になった静岡さんだ。


「直接会うのはあの時以来か」


 そう言われてみればそうかもしれない。細かい連絡とかは短文チャットでしてたけどね。


「あの後色々と立て込んでいたからな。当事者の一人であったお前にも状況を説明しておくために今日は来てもらった。秘匿性の高い内容が含まれる。他言は無用だ」


 そこから聞かされたのは、あの時なんで桐原さんが誘拐されるに至ったのかについてだ。アンジェラさんからの情報で奇妙な事が分かったらしい。


 まずあの時、A国側のエージェントがジョナサンさんを捕縛に動いていた。実働部隊は3人で、元から日本駐在のA国エージェントが2名、それから本国から派遣されたアンジェラさんというメンバーだった。

 そもそもアンジェラさんは単独でもジョナサンさんに対処可能であると考えられて本国から派遣されてきたという。なのに駐在のエージェントが横割りをする形で対策部隊を結成し、アンジェラさんを指揮下に入れてしまったらしい。命令自体は正式に発令されていたので従ったが、不自然さは覚えていたという。

 その上で現場で出くわした桐原さんについても何のかんのと言い訳を付けて捕縛しようとしていたとか。最終的には先任命令で押し切られ、そのままジョナサンさんの監視を言いつけられて俺たちと接敵したのだとか。まああの場に居たのは俺じゃなくて狐の面をかぶった謎の男なんだけど。


「どうも、最初から桐原あやかを誘拐するつもりであったように思える節がある」

「どゆこと?」

「以前から公安と対策課は念動力者である桐原あやかを監視していると言ったな? あれは念動力者が危険な動向を見せないかを監視するものでもあるが、近年念動力者の中に不審な失踪をする者が多く見受けられるようになったために開始された、どちらかと言えば保護するための措置だ。

 そして先の不審な動きをした先任エージェントの二人、現在は行方をくらませている。対策課及びA国SPAは重要参考人として行方を追っているが、現在のところ足取りはつかめていない。

 先の念動力者の不審な失踪の裏に、念動力者を集めて何かをしようとしている組織の影があり、失踪した二人のエージェントはその構成員だったのではないかと見ている」


 それらの目的を調べるためにも先任エージェントの行方を捜査することは必要。

 これまであまりにも協力体制を結べていなかった二つの組織であるが故に起きた今回の事件を反省して今後は連携を強化すると共に、現在行方不明の彼らの捜索と捕縛について、今後の協力体制の礎として日本とA国で共同して捜査にあたることになった。


「我々も向こうさんも、それまでの組織体制に固執しすぎていた。

 今回の件にしても、我々がジョナサン・モストを補足した段階で協力を依頼していれば済んだ話だし、お前に倒された後の取引についても上層部が余計な欲を出す事もなかった。向こうも対象が日本にいると分かっているならこちらに協力を要請すれば民間人に被害を及ぼすこともなかった」


 まとめるとこうだ。

 差し当って迷惑かけたジョナサンさんは好きにしていいから、謝罪の意味も込めて当事者の一人である特記戦力のアンジェラさんを貸し出すから、今回の話は手打ちにしてもらえないだろうか。あと一緒に悪い奴探そうぜ。

 こっちも不法侵入しちゃってごめんね。でも元をただせば悪いのそっちだからチャラってことでいいよね。分かった。一緒に頑張ろう。

 じゃあそれで。っていう超法規的措置の末生まれたのが今の状況らしい。


「対策課としても面子があるからアンジェラ・リンドベルの手を易々と借りる事はないだろうが、いざという時の戦力としては間違いなく頼りになる。ジョナサン・モストはA国からも使い倒すように言われているから遠慮はしないが、アンジェラ・リンドベルについては現状待機が多い」


 へー。だからアンジェラさん日本にいて暇してたのか。


「不幸中の幸いは桐原あやかに後遺症の残る傷害がなかったことだ。政府による謝罪は受け入れられた。本人の意向としてはこれまで通りの生活を送りたいということだった」

「別に俺から言う事とかはないよ。桐原さんがいいならいいんじゃない?」


 正直話を聞かされても何がどうなってそうなったのか、よくわからない。一番迷惑したのって桐原さんだし、桐原さんがいいならいいんじゃないかな。


「お前の助力のおかげで今の状況があると言ってもいい。本来ならばもっと拗れていた筈だ。だから何か報酬の希望があれば言ってみろ」

「報酬? お金とかってこと?」

「金がいいなら金で渡すが」


 いや別にお金も困ってないしな。うちは畑と狩りで食料も足りてるし。スマホ代もUtubeの収益でまかなえてるしなぁ。

 あ、そうだ。


「じゃあさ、こういうの用意できない?」

「何? 何に使うんだこんなもの」

「まあちょっと必要になるかもしれないんだけど、たぶん市販はされてないだろうなって。あともう一つはこれ」

「そっちは別に構わないが……一つ目はオーダーメイドになるぞ。体のサイズだけ教えろ。特に身長で鯖読むなよ」


 そんな嘘つかないよ!

 ……つかないよ!

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