第29話:かかしの気分

 配信で聞いた男がしたくない事第一位。それは女の買い物の荷物持ち。

 でも不思議だよね。配信のコメントの皆って恋人とか居なさそうなのになんでそれが嫌ってわかるんだろう?

 だけど気持ちは分かる。前にラヴィーネに付き合わされた時も無駄にあれこれ歩き回ったから。今回はタケシは居なくて俺1人だ。アイツ用事があるとか言って逃げやがったんだ……顔笑ってたもん……。そして今回は服を選ぶ側も1人じゃない。3人だ。3倍だぞ3倍。でも俺負けないよ。何故なら山中さんが居るからだ!


 新宿で村木さんと会って、そこから立川まで引き返してラヴィーネ、コエダさま、山中さん(!!!!!!)と合流。約束していたコエダさまの服を見繕う会が始まった。別に昭島とかニオンモールでもいいと思うんだけどね。店が色々あるから立川がいいんだそうだ。まあ確かに立川とか八王子だとそんなに必要? ってくらいお店はいろいろあると思う。

 とりあえず巫女服は目立つからコエダさまには俺の服を貸している。ぶかぶかだけど尻尾や耳を出すのに邪魔じゃなさそうだからこれでいいということだ。まだそれでも目立つから尻尾や耳に部分的な隠蔽の魔術をかけている。これ初めからコエダさまに術かければよくない……? ダメ? 町の人間にコエダさまを見せたい? そう……。


 そういえばラヴィーネや村木さんに散々ダメだしされた例の隠蔽魔術は改良した。改良というか別の魔術を開発した。カスタマー(かっこいい)の意見は大切にしないとね。

 具体的には隠蔽しない対象っていうのを選べるようにした。つまり姿を確認させたい人には効果が出ているのか分かるように半透明になって見えて、それ以外の人には見えないっていうことだ。これが結構難しかったけど、念動力まで動員してなんとか成し遂げた。やっぱり魔術は特定の人を指定する事が苦手だ。

 あとは今やったみたいに隠蔽を部分的にすることもやった。これも最初の魔術と一緒に出来るようにしようとしていたんだけど、『別の魔術を複数回使うか使い分ければいいではないか』とラヴィーネに言われて確かにと思ったから別の術にした。どーも俺はなんでも一つでやろうとしすぎるらしい。だって十徳ナイフみたいでかっこいいじゃん……。

 早速役に立ってそれはそれでよかったけど。そんなことより!


「山中さん山中さん!」

「なあにメイジくん」

「なんじゃ」

「コエダさまはコエダさまって呼ぶから……」

「分かりにくいじゃろ。りんこと呼べば良いではないか。のお、りんこ」

「そうだよメイジくん。どうして私だけ名前で呼んでくれないの? 寂しいなー」


 山中さん絶対そんなこと思ってないくせに! 顔が笑ってる!

 い、いいじゃん! なんか名前で呼ぶの恥ずかしいの! コエダさまはコエダさまって呼ぶからね!


「メイジは妙な所で子供っぽいな」

「式力だけいっちょ前で他はガキじゃなー」


 うるせーやい! うちの集落じゃ16で大人だ、あと3年で俺は大人になるんだい!


「メイジくん、3年経っても今のままかもしれないね」

「そんな気がするのぉ」


 俺はでっかい男になるんだ。さーほらぐずぐずしてないで服見に行こうぜ服!

 最初はヴニクロだ、というラヴィーネの先導でようやく歩き出した。


「ねえねえメイジくん。さっきは何を言おうとしていたの?」


 すすっと山中さんが隣によってきて顔を近づけて言った。今日の山中さんは仕事中にいつも着けてるエプロンをしてないから何か新鮮だ。ちょっとひらひらの付いたブラウス? に長いスカート。でっかいおっぱい。うん可愛い。


「あ、うん。服の事よく分からないけど、今日の山中さんいつもと違った感じで可愛いねって言おうと思ってた!」


 山中さんは中学のクラスメイトみたいに髪を染めたりしてないから髪色は黒なんだけど、髪を片側にまとめて結ってていい感じなのだ。なんというか、お嬢様っぽくてお上品だ。とっても似合ってる。姫っていうわりに姫感ないラヴィーネとは大違いだ。


「……そういうことは言うのに名前で呼ぶのは恥ずかしがるんだ」


 頭をぐりぐりされた。なんでだ!




「メイジ。お前は何か買わないのか?」


 同じデザインの服の色についてあーでもないこーでもない10分討論して結局別のデザインの服を見に行った後の事。ラヴィーネが両腕を紙袋で埋めている俺に言った。ちなみにどっちも買いなよという言葉は封殺された。

 さっき村木さんに服の発注したから上はいらないかな。


「服? なぜそんなものを協会に依頼したのだ」

「欲しいもの無いかって聞かれたからさー。普通のフードだと顔まで隠れないからちょっとフードが大きい奴が欲しいって言ったんだ。あとコエダさまが狐になったとき、そこに入れるといいなと思ったから。普通のだとちょっときつそうだし」


 あの服の中からお供のペットが出てくる奴を俺もやってみたい感はある。コエダさまだと普通に頭踏んづけてきそうだけど。


「風呂敷でよいではないか。だいたいなぜワシはお前に運ばれる前提なのだ」


 風呂敷はちょっと……。

 いいじゃんコエダさまは寝ながら移動できるんだよ?


「別にこの姿で良いではないか。こうして現世の服も見繕っておることだし」


 それもそうか。まあでも、いつかやるかもしれないし、そもそもコエダさまが入れる機能はついでだし……。


「にしてもコエダさま、耳と尻尾の調整があるとはいえ、結構今風の服も普通に似合うんだね」

「髪が明るい茶色だから服は合わせやすいな。耳は、まあ私の角と同じで帽子を被るか開き直るかすれば良いのではないか」

「そうじゃろそうじゃろ」


 なんというか、街に溶け込んだ恰好だ。たぶん要所要所お洒落なんだろうけど俺には認識できないから普通にいそうな小学生って感じ。


「尻尾の穴は家に帰ったら調整しよう。私は最近裁縫も始めたんだ」


 ラヴィーネはそのうち店でも始めそうな勢いだ。そういえば魔界で使えるSNS計画も考えてたな。魔術だけでやるには厳しいから、魔道具を使う方法を模索中って言ってた。


「山中さんは服買わないの?」

「うーん、私の場合は市販の物だと上はちょっと合わないかな。着れるサイズで買うと太って見えるから」

「なんで? 別にいいじゃん」


 何着てもきっと山中さん可愛いよ。


「ダメなんだよ」

「アッ、ハイ」


 謎の圧が出てきたので撤退。山中さんはたまに怖い。


「りんこよ。お主、袴なども似合うのではないか?」

「小さい頃は節目のお祝いで着ていたこともありますね。うち、実家が神社なので」

「ほお。ということは山中というのは我が配下の神職であったのか」

「関係性は分かりませんが、コエダ様が仰るのでしたらそうかもしれません」

「妙な所で縁が繋がるものじゃなー」


 というか山中さん、コエダさまのこと普通に受け入れてるのなんでなんだろう。

 ラヴィーネで慣れたし、そもそも俺が居たからそういうものだと諦めた? なんか照れるぜ。照れるところじゃない? なぜなのだ。

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