第5話:うちの山に服屋はない

 タケシの家の住人にラヴィーネが増えたが、俺の生活はそんなに変わってない。

 朝起きてさっさと家の用事を済ませて、スマホと財布とハンカチとティッシュを鞄に詰め込んでいざ奥卵だ。最近は夏になって盛った猪が多くて嫌になる。


 さて、今日は動画撮影の準備で立川までやってきた。いつまでも恥ずかしい恰好をさせていると俺たちまで恥ずかしいので、ラヴィーネの服を買いに来たのだ。

 最近は予算っぽい何かが動画の収益で出ている(らしい)から、その金で用意してついでに写真を撮ってファッションショー(そういうものがあるらしい)をやらせようという腹だ。予算があるといっても高い買い物なんて出来るわけないから、格安量販店での買い物ってことになった。

 ちなみに格安量販店って単語は今朝知った。ついでに言うと服屋にも入ったことがないから二人には言ってないけど実はけっこー緊張している。てか出来上がった服って店で売ってるんだな。いつもとーちゃんが持って帰ってくるから、買い出しのついでにうちの野菜と取引で交換しているのかと思ってたのに……。


 これからの動画はパルクール、魔術物まね、ラヴィーネ入りの動画企画、でやっていく事になった。そのうちラヴィーネも魔術物まねやるかもしれないけど。

 美醜の概念は俺にはよくわからないけど、ラヴィーネの顔立ちはぱそこんでよく見る歌って踊ってる女? とかの系統に似てるからたぶん悪い結果にはならないんじゃないかと思う。でも山中さんの方が絶対可愛いと思う。

 特にラヴィーネはうちの女共みたいに乳が小さい。山中さんくらいとは言わないけどもうちょっと頑張って膨らませた方がいいと思う。


「貴様こそ私より背が低いではないか。背を伸ばしたらよいのではないか?」

「成長期なんですー。これから伸びますー。ぜんぜんきにしてませんー」

「貴様のそういうところ、愉快だぞメイジ」


 うん? うん……うん? まあいいか。

 まあラヴィーネは俺より年上だしな。その分上背に差があるのは仕方のないことだ。年下の従妹も俺より背が高いが、俺くらいの年齢の女は男より身長が高いって保険の授業で習ったから大丈夫だ俺は何も心配していない。将来山中さんよりでっかい男になれればいい。いいんだ……。


「しかし現世の衣服は種類が多いな。ほう、これなど良いではないか」


 そう言って手に取るのは身体の線が出るピッタリしたタイプのニット服。やっぱそういう系統の服が好きらしい。

 種類がどうのっていうか、店の中いっぱいに服がずらっと並んでるのがすげーと思う。一回修行で魔力を使った繊維編みをやったことがあるけど、靴下片方の分作るだけで大変な苦労をした。都会じゃ服は機械が作ってるらしいけど、その機械だって作るのすげー大変そうじゃん。やはり都会はすごい。


「好むというよりは我が領ではこういった服飾が一般的というだけだ」

「それ田舎者の理論じゃん。都会に染まろうぜ」

「そういう貴様はなんというか……服の大きさがあってないのではないか? 正直見ていて野暮ったいぞ」


 なぜだ。大きめのシャツは身体の線が曖昧になって急所の所在を隠せるのに……。


「ラヴィーネさん。角や羽は仕舞えるの?」

「角と尾は無理だな。羽は畳めば穴が開いてなくとも問題ない」

「じゃあ帽子も一緒に見てみようか。キャスケット帽なんか似合うと思うよ」


 なんかタケシ、女の扱いが手慣れているような……まあ金持ちだしそういう機会も結構あったんだろう。うちのうるせー妹共もこの調子で手懐けてくれる事を期待しよう。



「なんで服を選ぶだけでこんなに時間がかかるんだ」

「買い物とはそういうものだろう」


 4時間! 4時間も「しめむら」「ヴニクロ」「ジーヴー」を回る羽目にあったんだぞ!

 勝手に一人で選べばいいのにあーでもないこーでもない無駄に悩みやがってー!

 いやでもコイツ一人にしといたらあのいつ破れるとも知れない認識阻害で街中ふらつかれることになるのか。それは不安すぎるから今日は仕方ないな。


「まあでもこれで認識阻害も必要なくなったんじゃないの」

「ふむ、自分では分からないが、二人から見てどうなのだ?」

「馴染んでると思うよ。少なくとも見た目で魔族だとは判別できないんじゃないの?」

「とてもお似合いですよ」

「似合っているかどうかは聞いていないのだが……まあよい。確かにこれなら術を使わなくていい分、協会の目も欺けよう。二人とも協力感謝する」

「貰った分動画の撮影で手抜くなよ」

「それはまだよく分かってないところが多いが努力はする」


 後日。ラヴィーネもまあまあ動ける事がわかったので一緒にパルクールの動画を撮って投稿したところ、ラヴィーネの容姿についてのコメントばかりが付いた。俺の動画なのになぜだ。

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