第6話:猪より迷惑な奴はいない

 中学校生活は毎日が驚きと新鮮な刺激でいっぱいだけど、夏休みも毎日楽しめている。このままずっと夏休みが続けばいいのになんて考えてたけど、よく考えると俺の人生って今までずっと夏休みだったのでは……いや、よそう。


 例によって山から出て、電波が届く場所に来たタイミングでタケシにチャットアプリ(当然使える。何故なら俺はシティーボーイだからだ)で連絡してみたが、どうも今日は都合が悪いらしい。タケシがいないのにタケシの家に行くのもちょっと失礼かもしれないな。山中さんに会えないのは悲しいけど、会えない時間が二人の愛を育むってネットに書いてあったから今この瞬間にも畑の野菜みたいに愛がにょきにょき育っているんだろう。


 とりあえず午前中は自由研究を進めるとするか。俺の研究内容はズバリ奥卵の地理だ。まあ地理っていうかどこに何があって何ができるのかをまとめた地図を作ることだ。主に自分のために情報をまとめているんだが、来年中学に上がってくる従妹や妹の為にも用意しておこうという兄心だ。あいつらはきっと泣いて感謝するに違いない。するかなぁ。

 そのうち立川や新宿、他の町のも作るつもりだ。


 奥卵は一応日本の首都がある東京に所属する町らしい。奥卵より西に大きな都市はないから東京最西の町なんて呼ばれているとか。かっこいい。

 人口5000人前後。湖に面した地理上結構坂が多い。とは言えうちの山ほどではないからあんま気にならないけどな。

 中央線っていう東京を東西に横断する電車の亜種? みたいなのが通っていて、駅の周りは商業施設が多くてにぎやかだ。他はふつうの住宅らしい。俺にとってはしっかりした造りの凄い家だけど。町の家を見てから思うのは、うちの山にあるのは家ではなく小屋だということだ。

 新宿と比べれば確かに栄えていないけど、うちの集落に比べれば圧倒的に文明的だ。人口にしたって8人対5000人じゃ比較にならないし。


 そういう町のどこに行けば何が揃えられるのか、どんな遊び場所があるのか、危ない場所はどこなのかっていうような内容を地図として作っていく訳よ。地図作成は冒険の基本だからな!


 そんな事をしているとこちらに近づく集団の足音。

 なんだろうと目を向けてみると見慣れない男たちの集団だった。まずそもそも登下校以外で人間が集団になっている事が稀な奥卵であれだけの集団を形成している以上、ほぼほぼ間違いなく町の外の人達だろう。

 なんか手元のスマホと俺の顔を何度も見比べている。


「いたぞ! あいつだあいつ!」


 そう言うとゾロゾロと俺の前まで近づいてきた。何人いるのかな、さんの、6人か。まあ片手でいつでも行けるか。


「おにーさんたちなんか用?」

「おいお前、メイジとタケシの色々チャンネルのメイジだよな?」

「そうだけどお兄さんたちは?」

「俺は突撃系Utuberマグロだ。今日はお前のイカサマを暴きに来た。逃げんじゃねーぞ。ま、ダチ連れてきたから逃がさねーけど」


 お、なんか変な奴が来たな?



 とりあえず往来の真ん中でたむろしていると邪魔だから場所を変えた。広い場所ならいいでしょってことで学校に来た。今日は吹奏楽部もお休みでとっても静かだ。


「で、魔術を使えばいいの?」

「ただ使うだけじゃねえ。俺たちが生放送している所で生で使え。それも俺たちが指定した奴をだ」

「はあ。あんまり無理な奴じゃなきゃいいよ」

「じゃあ火。火出せよ」

「あ、ごめん。火はこの間危ないから止めろって先生に言われたから無理なんだわ」


 正直火を出すのの何が危ないのかよくわからなかったけど、先生がそういうなら何か理由があるんだろう。


「はぁ? この前動画でやってただろうが。やっぱ詐欺なんじゃねえか」

「だからその動画で先生に怒られたの。他のにしてよ」

「言い訳ダッサ……じゃあテレポート。テレポートしろ」

「テレポート?」


 テレポートっていうと瞬間転移ってことか?


「出来ねーんだな」

「そんなのでいいの?」


 瞬間転移とか地味な奴でいいのか。何かもっと派手なのを求められるのかと思っていたのに。ますますよくわからない人たちだ。


「お? おーいいよいいよ。言質取ったかんな。やれんならなやってみせろよ。ちなみに俺ら見張ってるからペテンで騙そうとしても無理だから」

「いや転移ごときで騙すもなにも……あー、んじゃ今やればいい?」

「いや待て待て。そーだな……俺たちがお前の周り囲むわ。んでお前がその中でテレポートする。これでどうよ」

「いいよ。あーでもちょっとまった、危ないから準備する」


 取り囲んでの転移だと雑転移は使えないな。範囲に入った空間ごと切り取るから腕とか入ってたら千切れちゃうしな。あれは痛い。

 対象を指定する奴でやるか。

 目印作らないとな。

 面倒だし水を凍らせて描くか。

 ミ、ミ、ヌル、ケ、オン ぴーっと書いて、ヒル、ヒル、カ。


「これ目印だから消さないでね。凍らせたから簡単に消えないと思うけど、消すと危ないよ」

「えちょ、今なにした?」

「なにって目印だけど」

「いや手見せろ。変な水仕込んでただろ」

「え? 別になにも……なあ早く囲んでくれよ」

「お、おぉ……じゃあお前ら囲むぞ。お前カメラもっとけよ」



----


●REC



『いつでもいいけど合図とかあるの?』

『んじゃカウント0になったらやれよ。出来るわけねえけど。3,2,1,0』

『シン、マヌ、オ』

『お。はあああああ!?』


――動画は手振れで乱れている


『ペガもタルシムもやってんのにそんな驚く? 逆昇竜で出るじゃん。あ、スマホ落として行っちゃった。切ればいいのかな? 交番に預けておくからね』



----



 というような事が昨日あったとタケシに話した。


「あー迷惑系のマグロが来たんだ。前から凸る凸る言ってたけど全然来ないからもう来ないかと思ってた」

「迷惑系ってなに?」

「他人に迷惑かけるようなことしてるところを動画にして投稿している人たちだよ」


 じゃあ嫌な奴だったのか。ぶっ飛ばせばよかった。


「まあまあいいじゃない。おかげでうちの動画の再生数も伸びたし、あちらの動画も伸びたみたいだしさ」

「いいのか? まあいいか。ところでさぁタケシ。もしかして魔術使うやつって珍しいのか?」

「僕はメイジくん以外で見たことなかったね。最近はラヴィーネさんが出てきたせいで自信がなくなってきたけど」

「でも珍しいって言ったってさすがに10万人とか居れば100人くらいはいるだろ。たまには使えるやついるんじゃね?」

「居るのかもしれないけど、人前で使う人は珍しいのかも。ほら、魔術協会も秘匿しているって言ってたじゃない」

「はーそうなのか。田舎者だから都会のルールはよくわかんねーな」

「田舎だからとか関係ないんじゃないかなぁ。ところでさ、僕って魔術使えるようになったりしない?」

「ん? 無理だな。俺が見てきた中で一番センスない」

「……ショック」


 魔術じゃなくて念動力とかなら向いてそうだけど、魔術が使いたいならしょうがないよな。

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