第4話:うちの近所に魔族はいない

 山の中で狩猟と自家菜園な暮らしを13年間してきた俺だったけど、今ではすっかり町暮らしのシティボーイ(マサヒロ談)な訳よ。文明を知ってしまったらもう家の中には居られないってワケ。

 ところで都会っ子かそうでないかの差ってわかる?

 そうだよね。スマホを持っているかどうかだよね。


「てワケだからお前田舎者。俺都会っ子。ユーノウ?」

「メイジくん。都会の子でも小さい頃は持たせてもらえないことが多いからその分類は無理があるよ」

「意味は分からんが馬鹿にされているのは分かったぞ。そこに直れ」


 最近授業で習った英語は魔界の田舎者には難しかったようだ。

 昨日新宿でなんか揉めてた? 魔界の住人。名前がなんとかかんとかラヴィーネというらしい。今日も元気に角やら何やらが生えて薄着だ。着替えとか持ってないんだろうか。

 あの後はなんやかんやあってタケシん家に泊ったらしい。

 それにしてもこの恰好で恥ずかしくないんだろうか。暑がりなうちの妹でももう少しつつましい恰好するぞ。俺で言ったらパンツ一枚みたいなもんだろ。例のクッソ雑な認識阻害で電車に乗ってたけど、俺だったら絶対ごめんだ。


「貴様、一体何者だ? 協会の連中とも違うようだが」

「まずその協会ってのが何なのか教えてくれ。実を言うと俺、都会のことはよく知らない」


 そう訊ねると、聞いてないラヴィーネの事情も含めて説明された。

 曰く、魔界と現世は古くから繋がりがあるらしい。

 曰く、魔界の秘宝が人間に盗み出されたからそれを探しているらしい。

 曰く、盗んだ下手人は魔術協会という組織らしい。

 曰く、魔術協会は現世(たぶんこの国のことなんだろう)の魔術を秘匿し占有している集団らしい。

 秘匿という割にはゲームとか漫画とかでモロバレしてる気がするんだけど、その組織大丈夫なんだろうか。


「本当にそんな組織が実在していたんですね」

「おいタケシ。なんで俺を見ながらそんな事言うんだ」

「いや、本当にメイジくん以外にもそういう魔法を使える人が居るんだなって」


 そりゃこれだけ人が暮らしてればその中に居ないわけないだろ。むしろ奥卵で見かけなかったことの方が珍しいくらいだ。あれ、もしかして奥卵って田舎……?


「そう、それだ。メイジとか言ったか。貴様、どこでそれだけの力を身に付けた? 協会の黒服3人を一瞬で倒すなど、生半な力ではないぞ」

「いやあんなふざけて遊んでる初心者くらいどうもこうもなくない?」

「えっ」

「えっ」


 俺は「男と女が揉めてたらとりあえず女に味方しろ」という、とーちゃんの言いつけを守っただけで、実はあの場の状況がよく分かってなかったりした。あの人達がイイモンでラヴィーネがワルモンだったら今日ぶっ飛ばせばいいかなくらいの心算でいたんだが、何かおかしかったんだろうか……。

 まあ魔術使って一人いじめてる奴なんてロクでもない奴に決まってるよな。うちの家族は事あればかーちゃん妹従妹の3人がかりで俺をフクロにしてくるロクデナシ共だからよく分かる。

 そんなことより。


「それよりお前、家とかどうしてるの?」

「そのお前というのを止めよ。私はエレキシュガル・フォン・ラヴィーネ。魔族の祖たるエレキシュガルが子孫、二十七代目の当主であるぞ」

「俺はメイジ」

「僕は花開院タケシです」

「名を名乗れと言っているのではない! 魔界の姫たる私に無礼だと言っているんだ!」


 そんな田舎(ローカル)ルール持ち出されても。そっちがその気ならこちとら雷神の息子だぞ。いや、そっか。そうだよな。分かるよ。俺もそうだったよ。都会のルールがまだ分かってないんだよな。都会には都会のルールがあるんだぜ。郷に入っては郷に従え(授業で習った)というんだ。だからここはお互い名前で呼び合うことにしようぜ。お前呼びしたのはごめんって。


「なんだその生ぬるい目は……まあいい。それで家か? 私が現世(こちら)に来たのは昨日のことだ。暫く現世を探索しているうちに協会の連中に追われていたのだ」

「初日だったんですね。そういう事でしたらこのまま家に泊っていきませんか?」


 おいおいタケシ。昨日から妙にコイツに優しいがどうした。


「あのねメイジくん。きっとラヴィーネさんも急に都会に来て不安なんだよ。メイジくんだって初めてこっちに来たときは驚いたんでしょ?」

「いや、俺は割と余裕だったぞ」

「メイジよ。声が震えているぞ。ちなみに私は全然不安などではない」

「だからそういう人には親切にしてあげなくちゃダメだよ。メイジくんはもうシティボーイの先輩なんだから後輩には優しくしてあげなくちゃ」


 先輩。先輩。シティボーイの先輩。そこはかとなく言葉の意味が通らない気がするけどなんていい響きなんだ。

 そうかー先輩ならなー先輩なら仕方ないなー。


「ということで暫くうちで暮らしていいですよラヴィーネさん」

「ふむ。ならば世話になるぞタケシ」

「はい。ただ、一つ条件があって」

「なに? まあいい。なんでも言うがよい。郷に入っては郷に従えだったか? エレキシュガル家の当主として恥じぬ働きをしてみせよう」



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●REC


『え、えぇと……もう始まっているのか?

 は、初めまして。なんだか変な感じだな……。

 私の名前はエレキシュガル・フォン・ラヴィーネ。

 ね、年齢も言うのか?

 16歳だ。

 魔族の祖たるエレキシュガルが子孫、二十七代目の当主である。

 この度メイジとタケシの色々チャンネルのどうが? 製作に参加する事となった。

 今後ともよろしく。

 貴様ら現世のにん……あっ、皆さんと交流できることを楽しみにしています。

 これでよいのか?』


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 ただ飯喰らいは迷惑だもんな。働かざるもの食うべからずっていうし。やっぱギブアンドテイク(覚えた)が大事だよ人間は。魔族にそれが当てはまるのか知らないけど。

 昨日からタケシがなんか企み顔だったのはこういうワケだったのか……動画の勢いがどうとか最近ずっと言ってたもんな……タケシ、恐ろしい奴。

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