第41話 火炎の息吹
『コンドハ、キサマガヤカレテミルガイイ……!!』
込み上げる何かに耐えるが如く獅子の顔が真っ赤になっていく。
口元を横一文字に硬く引き締め、数秒。凶悪な牙の隙間から漏れ始める、小さな火の粉。飛び散る火花は時間の経過とともに大きくなり、その熱気が周囲の大気を歪めている。それは脳裏で火山の噴火が刻一刻と間近に迫る光景を幻視させた。
嫌な予感から額に冷汗が滲んだ、ちょうどその時。
『……――ッッ‼‼』
口を大きく開け放ち、鋭い牙を剥き出しに、巨大な火焔を吐いた
――至近距離での戦闘は此方に有利なだけに、そう簡単に距離を詰めさせてはくれないか。
伝え聞く煉獄のような光景を前に、俺は風を属性付与した槍を背後に引いて構える。
だが、やるべきことは何も変わらない。道が無いなら切り拓いてでも押し通る……!
「……【吠え狂う三日月の刃風】ッ!」
横一閃。眼前に広がる炎の海に、烈風が渦巻く矛先を振う。正面に半円の弧を描くと同時に、三日月状の衝撃波が一直線に飛び去り、燃え盛る焔の壁を真っ二つに斬り裂く。
切り離された緋色の幕は、意志を持つが如く慌てて修復の予兆を見せる。だが、それが再び結び付くより早く、二射目、三射目を発射。断続的に射出される三日月状の衝撃波によって
「いくぞッ!」
刹那、炎の海が割れて出来た一本道を駆け抜け、猛烈な熱波に体を炙られながら中央突破。
それを目撃し、火炎の
彼方から此方を見下ろす隻眼の獅子と視線が交錯。
その目に映すだけで対象を射殺しかねない剣呑な眼差しを受け止めながら、
『オオオオオオォォッ!!』
炎の残滓を掻き消す勢いで、振り抜かれた鉤爪の一撃。
俺は突撃の途中でガクンと膝を折り、地面を蹴飛ばして宙に舞い上がる。続けて、全身で力を溜め込むように槍を限界まで引き絞り、天に向かって蒼白く光る切っ先を奔らせた。
真上からの掌底打ちと下段からの天を突く刺突が激突。
「ぐぅ……ハァッ!!」
此方も右肩が脱臼しそうになるほどの衝撃に襲われたが、構うことなく切っ先を押し込んでいく。槍から伝わる、肉を抉り骨も断つ手応え。
次の瞬間、多量の血飛沫を飛散させながら、小指と薬指を切り飛ばした。木の葉のように宙を舞う二本の指。次いで傷痕を焼き始める蒼炎の働きで、怪物は苦悶の声を漏らす。
「……!!」
一方、欠損して生まれた間隙に、すかさず身体を捻じ込み、敵の攻撃を無傷で掻い潜る事に成功。
激痛の余り巨躯を反って絶叫する
『ガゥッ――……!!』
左前肢の膝裏に強力な一撃を叩き込まれた敵は、バランスを崩して横向きに倒れていく。一撃一撃は致命傷で無くとも、蒼炎の延焼効果もあってダメージは蓄積されている。
――巨大化した代償に小回りが効かなくなり、足元の攻撃に対する対処は遅くなったようだなッ!
そんな感想を抱きながら、横転する敵に巻き込まれないよう冷静に間合いを見切って距離を取る。
しかし、間を置かず、再度の特攻。巨大な相手には、鼻息が掛かる程の超至近距離こそ真の安全圏だからだ。
横転した相手が立ち上がり切る前に、左の前肢から駆け上がり、肩口を蹴って跳躍。
目前には、驚愕の表情を浮かべた隻眼の獅子。
即座に下段からの斬り上げを放つ。
『グゥ、ガァオオオォォ!!』
残る左眼も斬り裂かれ、悶絶する獅子の頭を尻目に、今度は蛇頭が着地したばかりの俺に襲い掛かる。
「ッ!?……喰らえッ!!」
獲物を容易に食い千切る鋭利な牙が生え揃う顎門を限界まで上下に開いて急降下。
それを迎え撃つべく俺は、風が螺旋状に纏わり付く槍を高速で振り抜いた。
一直線に空を駆けた衝撃波は、蛇の口に飛び込んでそのまま喉奥に着弾。
『カ……ガ、ゥ――ッ!』
【三日月の刃風】を呑み込んだ蛇の頭は、白目を剥いて地面に崩れ落ちる。
これが
千載一遇の好機。
「ハアァッッ!!」
背中を反りながら頭上高く構えて、鉾先を真下に振り落とす。
『――――!!』
蛇の脳天目掛け青い稲妻が落ちる。
硬い頭蓋骨を容易に粉砕し、鮮血を噴き出しながら貫通。
細長い舌を力なく垂らし、地面に縫い付けられた蛇の頭部は一度だけ痙攣し、やがて完全に沈黙した。
しかし、感傷に浸る時間は無い。
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