第33話 二者択一
「――鬱陶しい!」
城下町での遭遇戦を幾度となく重ね、やっとの想いで大通りの終着点に辿り着いた俺は、息つく暇もなく再び戦闘を強いられていた。
終着点とは、中腹にある街を見下ろせる、丘の頂上付近に建つ城館。その周囲を囲む石塀を乗り越え、建物の中に侵入を試みた直後に、何処からともなく現れた
紅い薔薇の花が咲き誇る中庭。
芸術的なまでに手入れされた庭園を気にする余裕もない俺は、迷わず溶岩津波を発動。唐突に大地が蜘蛛の巣状にひび割れ、そこから噴出した溶岩流に薔薇の茂みが無惨にも呑み込まれていく。
『!? ァァァッッ!!』
現在戦闘中の
「またか、キリが無いな……」
そして、取りこぼした最後の
萎えそうな心を奮い立たし、俺は蒼炎を槍に纏わせながら、脚力に物を言わせて地面を蹴る。
「喰らえッ!!」
爆ぜるような猛スピードで薔薇庭園を突っ切り、こちらを睨みながら敵集団の先頭を駆ける
対して、それを目撃した彼女も短剣を逆手に握ると、迎撃の態勢を取る。
こちらの刺突を弾いてのカウンターが狙いなのか。大通りで遭遇した
ただ、反応すらできなかった先程の
『――ハッ!!』
蒼い炎を置き去りにし、残像すら捉えるのが困難な一撃。
これまでの敵に対しては必殺に等しかったそれを、
槍の切っ先に吸い込まれるような最短距離の軌跡。
そのタイミングはまさに完璧と言う他ない。本来なら、そのまま槍の矛先を殴りつけ、胸元を穿つ軌道から逃れられただろう。
身体能力の差を顧みると、かろうじて目で追えただけだろうに見事な技量だ、と内心で称賛すらしてしまう。
「――だが、
濃縮された時間の中、焦燥を欠片も感じさせない声音でそう吠える。
故に、予備動作の段階から敵の
『ッ!?』
刺突を繰り出す過程で、肘を浅く曲げ手首で捻りを加える。言葉にすると、ただそれだけの一連の動作。されど、それによって生まれた効果は絶大だった。
「――フッ!」
短剣が槍の矛先に叩き込まれる、寸前。ただ愚直に真っ直ぐ突き出されるだけであった槍の軌道が急激に斜め下方向へと折れ曲がり、直撃するかに思われた短剣の一振りが虚しく空を切る。
技量の限りを尽くした迎撃を掻い潜ると、今度こそ蒼炎を纏った矛先が相手の鳩尾を鋭く穿つ。
「……ッ!」
肉を喰い破った衝撃で、周囲に飛び散った鮮血。朱く染まる
風に加え、火と光の
だからこそ、次に彼女が取った行動は、想定外で驚愕を隠せなかった。
『――生存は絶望的と判断。対象の戦闘力低下に目的を変更します』
それを聞いて、まさか、と咄嗟に両腕に力を込めるが、槍が抜けない。
――こいつ、命懸けで足止めを!
その直ぐ後ろには、更に三体の
結局、俺は槍を諦めて即座に窮地から脱するか、武器を回収できるまでは徒手空拳で耐え凌ぐか、の過酷な二者択一を強いられる。
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