第14話 魔力保有量
セリシアが唇の端をぴくぴくと震わせるもどこ吹く風と受け流し、頭の中で今後の対応を練っていると、険悪となった空気にグレンが割り込んだ。
「クリスの働きに期待したい、と言いたいとこだが、基本的にこれまで通り無駄な戦闘は極力回避する方針で構わないな?」
「ええ、クリスの妄言はともかく、体力も魔力も温存するに越したことはないでしょう」
「相手は
グレンの言い含めるような言葉に、セリシアとカレンがそれぞれ頷く。
数十匹の
また、グレン達並の位階ともなると、【小鬼が嗤う巣窟】の一、二階層までに出没する魔物は格下となるので、吸収できる魔素――戦闘経験値も大幅に減少し、いくら雑魚狩りしても次の
従って、旨味の少ない格下の魔物と一々足を止めて戦闘を繰り返すより、ダンジョンの浅部では可能な限り戦闘を回避し、最深部に出没する格上魔物を狩る方が経験値効率の面でも遥かに合理的だ。ましてや、今回はボス戦を控えている身ともなれば、戦闘行為そのものが魔力や体力の浪費でしかなく戦闘する利点は限りなくゼロに近い。
そんな中での先程の戦闘は、階層間唯一の出入り口を
特にカレンほど広域制圧、殲滅に特化した魔術の使い手となると、
数匹程度の低級モンスターに、同年代では彼女以外の使い手が存在しない中級上位魔術の【
「ところで、今更だけど
気を取り直したセリシアが、怪訝そうな顔で疑問を呈す。
方舟世界の魔素原子生物は空気中に漂う魔素を自然に吸収し、それを魔力に変換し貯蔵する魔臓器官を持っている。人類国家では初期位階の段階でその魔臓が他より発達し、一定ラインの数値を記録した高魔力保有者だけが、未来の魔術師候補として扱われる。
この魔力保有量を成長させるには、
同時にそれは、いかに優れた伸びしろがあろうと、低
カレンもその例からは逃れられない筈だが、本人は杞憂だとでも言いたげに、はにかんで答えた。
「全然平気だよ。体感では後三十回は同じことが出来そうだし」
「――流石は更新不可能記録とも言われた一〇〇〇年前の記録を、一年前に更新した同期の前レコーダーホルダー。貴方からすれば、
「……魔力保有量だけなら現時点でも、現役の一線級魔術師に匹敵するんじゃないか?」
当然ながら、他の初期ステータスと同じく最初の
カレンに感嘆しきりのセリシアとグレンの会話を見ながら、内心そう思った。……まあ、これ以上の化け物が俺達の一つ下に居るのだから、一地方の幼年学校には不相応だし、悪目立ちするのも当然だわな。
グレンが隣のセリシアに顔を向け、僅かに首を傾げて確認する。
「あと、そういうセリシアこそ魔力残量は大丈夫なのか? 見ていた限り遭遇する低級モンスターに合わせて、最小限の魔力と通常弾しか使ってないようだが、それでも数が数だからな。
セリシアもカレンに次いで魔力保有量は豊富だが、
具体的には六発の弾を装填できる回転式の弾倉を使い切ると、使用者は初級上位魔術の行使に等しい魔力を失うのだとか。
表面上、セリシアに疲弊した様子はないが、
セリシアは肩を竦めて、冷静な口調で答える。
「平気よ。カレン程でないとはいえ、私も魔力保有量には自信があるの。よほど道中で戦闘回数が重なりさえしなければ、
「そうか。だが、セリシアもカレンも無理はしないでくれ。正直、今回みたいな群れと遭遇しない限り、後衛の本格的な援護が必要となるほどの
二人が無言で頷いたのを確認したグレンは、最後に此方へと向き直った。
「次の二階層では、クリスに
「ふん、良かろう」
「戦闘の回避が難しくモンスターが単体ならそのまま排除してくれ。群れで襲ってきた場合は、前衛として時間稼ぎと足止めを任せたい」
グレンの紅い瞳を見据えながら、ニヒルに笑い出来るだけ尊大な口調で言葉を返した。
「――別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「良いわけないでしょ。背後から撃たれたいの?」
案の定、最初に食って掛かったセリシア。
鉄板の
「はは……クリスなら難なく出来るだろうが、流石にバランスが偏る恐れもあるから勘弁してくれ……何より、大物を控えている俺たちの中で一人に負担が集中するのはよろしくない」
慣れた様子で俺の冗談を笑って躱した後、真剣な表情をとなったグレン。
「さて、それじゃあ、早速次の階層に、と言いたいとこだが……先ずは周りに散らばっている魔晶石の回収作業に取りかかろうか」
「……ああ」
そう促されて周囲を見渡せば、既に
今回のような小粒の魔晶石でも、一個三〇〇
それが百に近い数も散らばっているのだから、二束三文にしかならない事は無いだろう。
また魔晶石などの魔鉱石は、
それから、俺達は全ての魔晶石を回収し終えると、地下二階層に続く階段を下りていく。
二階層も一階層と同じ草原の地形。フロアで活動する
遭遇する
湧き出る
勿論、俺は
そんな見どころもない戦闘という名の作業を繰り返しながら、荒野の地形が引き継がれた四階層も立て続けに攻略し、俺達は満を持して最下層である五階層に突入する。
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