第9話 中級ダンジョン
ベルネクス郊外には人間の手が加えられていない広大な森林が数多く残っている。
この辺りはかつてエリウス皇国と滅びた旧大国オースランド王国の国境地帯であり、本格的に開発が始まったのは、
一昔前は辺境の農村でしかなかったベルネクスが、僅かな期間で近隣一帯では有数の地方都市にまで発展した一因に、古代人が遺したとされる
巨大地下都市【方舟】は、
そこで古代人達は、人間や魔人以外の魔素原子生物――通称、
そうして、前大戦で独立維持が限界となった大陸中央諸国を皇国が領有した折に、ベルネクスで最小規模だが立派な
以降、持続的な
なお、
低級魔物は、原始的な武器を持つ大人や魔術師適性を持つ人間なら、子供であっても簡単に討伐出来た。
実際、現代より娯楽が少なかった古代では、当時の人類の身体能力が高かった事実もあって、
ただ現代では地下迷宮自体がロストテクノロジーで建設不可能な為、
また
中でも
そうした特殊な背景もあって、ベルネクスに限らず
ちなみに、今の俺が正規の手段で探索可能な
幼年学校の
逆に言うと、低級魔物は、体内魔素もごく少量で、討伐しても吸収できる魔素原子――別の言い方だとゲームで言うところの
それを数で補おうにも
故に、
かと言って、
士官学校卒業時の成績上位一〇人に入るか、任官後に戦場などで著しい活躍を見せれば、特権階級としての【
正規の手順で
もしも原作知識を思い出さなければ、近い将来の苦難辛苦を知ったところでどうにもならず、ただただ現実の非情さを呪うだけに終わっただろう。
「やっと見つけた……記憶が確かなら、此処がベルネクスのもう一つのダンジョンだ」
満月の月明かりが地上を淡く照らす、その日の深夜。
ベルネクスから北西方向に一〇キロ走り続け、森林地帯の外縁部に到着。額に汗をかいて生い茂る森の獣道を歩き続けた先には、木々の緑に覆い隠された洞窟がひっそりと存在していた。
皆が寝静まったころ、人目を忍んで寄宿舎を抜け出してきた俺は、筒状な携帯用の魔油ランタン――魔力に反応して燃焼する石油の一種を利用した照明器具――を頼りに生暖かい風が吹き込む洞窟へと一歩足を踏み入れる。
外からでは分からなかったほど、内部は想像以上に奥まっていた。暗くて一寸先も見えない闇の中を微かな灯りだけで足元に注意しながらゆっくりと歩き出す。
途中、泥濘の上に小動物の足跡が幾つか確認できたが、大型の動物や人が探索したような形跡は見当たらなかった。
そうそう無いと思うが、
数分も真っ直ぐ進んでいると、正面に岩盤の壁が立ちふさがり行き止まりとなった。焦らずランタンを近づけながら壁一面を照らし、じっくりと目を凝らして観察する。
それから岩盤の一つをゆっくりと押し込むと、地面が激しく揺れ動き、その場に一メートル四方の床穴が現れた。
「……これで事前知識が全く通用しない訳では無いことが証明されたな」
フィクションの仕様が現実となっても通用するのかという一抹の不安が拭い去られる。隠された床穴からは螺旋階段が伸びており、如何なる原理かは不明だが蝋燭の灯火が地の底まで続いていた。
ここは
その名称から察せられるように、【
三〇前半から六〇前後のモンスターと幅広いレベル帯の
そう、実はこの
元を辿れば
お蔭で誰にも邪魔されないプライベートダンジョンを確保でき、人目を気にせず心置きなく最短効率のレベル上げが可能となったと思うと今から笑いが止まらない。
ちなみに未発見のダンジョンを発見した者は、早急に所属する国に報告しなければならないのだが、下手をしなくとも命と未来が掛っている俺にとっては一考にも値しなかったりする……バレなきゃ犯罪じゃねえ!は究極の真理。そもそも、ダンジョン一つ自由に入れないとかどんなクソゲーだよ。
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