第17話
「だってほら、勇者様の願いは
あの怪文書のことか。
「アレ、勇者様が異星人に会いたくて、宇宙に特殊な電波を発信してるってこと。それが原因でたまに宇宙怪獣も飛来しちゃうんだけど……」
とんでもないデメリット付きの宇宙交信してるじゃん勇者様。電波はお前の頭の中だけにしとけよ。
「ほらっ、とりあえず逃げないと!」
「おい引っ張るなって!」
いや、本当に。
少し待って、落ち着かせてほしい。
まず、俺は気がつけば別の世界の自分に憑依していた。
そこは勇者様とやらが支配するディストピアで、性欲処理奉仕制度とかいう、基本的人権を蔑ろにしたようなルールまである地獄だった。
そこで、俺は助けるべき相手を見つけた。
国から強制的に大多数の男に性欲処理のはけ口として使われるように指示されていたから、そんな理不尽が許せなくて行動を起こしたのだ。
なのにもっとヤバい理不尽の塊が空から降ってきやがった。
ディストピアじゃなくて怪獣映画だった。
理不尽の方向性、間違えてますよ。
「──待って、あの怪獣……」
二人で走って逃げていく途中、チラチラと後方の怪獣を確認していた藤宮が立ち止まった。
ていうかこの美少女、さりげなくさっきから俺の手を握ってることには気づいてるのかしら。
プニプニすべすべでやーらかいです。現実逃避が捗る。
「……中央病院に向かってる」
「えっ?」
「お、お父さんが入院してるところなんだけど……」
振り返ると、確かに怪獣の進行方向には大きな病院が鎮座していた。
そこで一つ、忘れてはならなかったはずのことを思い出した。
……千鶴さんが入院してる病院って、どこだ?
「まっ、待って、あいつ止めないとヤバい! もしかしたらあの病院に俺の家族もいるかもしれない!」
「ヤバいじゃん!」
「やばいって!」
「どうしよう!?」
「どっど、どうしよう……!」
マズい、混乱して何も分からなくなってきた。
怪獣(?)から見れば俺たちは道端のアリ同然なので、小石を投げようが大声を上げようが、足止めの一つもできやしないことは理解している。
しかしこのままでは俺と藤宮の家族が危険に晒されるどころか、この街がなくなる可能性すらある。
「藤宮さん、三年前はどうやって解決したんだ!」
「え、えとっ、戦闘機とかいろいろ飛んできてゴリ押しで倒した。でも到着まで凄い時間が……あっ!」
瞬間、何かを思いついたように声を上げた藤宮は、俺の手を引いて走り出した。
急に走ると転ぶから危ないよ!
あとそろそろ手も離してくれてもいいよ!
嬉しさより不安が勝ってるから!!
「あそこの広場にあるの、勇者様が完成させた対怪獣用の機体……! 正式配備されるまえに展示で披露する予定だったやつ!」
帰り道に見かけたあの巨大ロボット、ただの展示じゃなかったの!?
「誰もいないけど……もしかしたらアレ乗ったら動かせるかも。いこっ、柏城くん!」
「いやおかしいって藤宮!! 待って!?」
怪獣映画じゃなくてロボットものだった!!!
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