第15話

「えーと……だから柏城くんはすごいスッキリした表情で、アタシを保健室まで運んで」

「……えっと、つまり?」

「奉仕係は体力が限界になったら、保健室で休息を取っていいってことになってるから、それを利用する感じ。柏城くんはアタシをまともに立てなくなる状態になるまで使ったっていう演技をしてもらうことになるけど……いいかな?」


 なるほど。

 要約すると、俺は誰もよりも早く藤宮の予約を取って、ダメ押しに他の生徒たちが使えなくなるまで藤宮で遊びまくった、史上最低の凶悪絶倫クソ男になるってわけか。俺の高校生活が終焉を迎えるなコレ。

 ──いや、いい。

 それしかないなら、やるしかない。

 元々選択肢などそう多くはなかったのだ。

 とりあえず今日を乗り切れそうな方法があるなら、迷わずそれを実行すべきだ。

 

「もちろん構わない。ただ、奉仕活動時間内に保健室へ行っても平気なのか?」

「それは大丈夫。風邪とかで休むのと違って、活動による疲弊で保健室送りになるのは、むしろ積極的に頑張ったって扱いになるから」


 とにかく、合法的な理由を用意してこのアダルトビデオのネタみたいな部屋から退室することができればこちらの勝利、というわけだ。

 あくまで奉仕制度が適用されるのは、指定の場所内のみ。

 そこを狙えばこうした裏技も可能なのである。

 厳しい制度にも穴はあるんだよな……。


「……んんっ、ぁ、はぁ……っ」

「っ!?」

「あ、演技演技」

「そうでした……」


 急に艶めかしい声を出すもんだからビックリして心臓が飛び出るところだった。

 準備ができたら肩を叩いて、と促すと程なくして出発の合図を受け取った。

 なるべく性的欲求を満たしたような気色わるい笑みを意識しながら、藤宮を背負って教室の扉の向こう側へ身を乗り出す。

 すると、外で待機列を作っていた男子たちがギョッとした。

 表情が引き攣っているであろう大根役者な俺はともかく、SNSで話題に上がるくらい役者として卓越している藤宮の真に迫る演技は、彼らにとっては本物に見えたのだろう。


「へ、へへっ、悪いなお前ら。一足先に楽しませてもらってたら、藤宮のほうがギブアップしちゃったみたいだぜ」

 

 ヤバい、声が震えてクソみたいな棒読みになってる。

 演技するのってこんなに緊張するものなのか。


「はぁっ……はぁっ、んうぅ……ゃ、やだ。さっきの、垂れてきちゃう……っ」


 あの待って、ちょっとやり過ぎじゃない!?

 くそっ、いきなり演技派女優に合わせるこっちの身にもなってほしいものだ。

 

「と、とにかくだな。藤宮は俺がやり過ぎて使い物にならなくなっちゃったから、本人の強い希望で保健室へ送ることになったぜ。お前たちはまた今度だぜ。ほら藤宮、早く保健室へ向かうのだぜ」


 そんなこんなで。

 背負った役者の怖いくらいリアルな演技に若干気圧されつつも、俺たちは妬みやら畏怖の念やらが込められた視線を跳ねのけて、なんとか保健室へとたどり着いたのであった。

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