第14話

 なんだ。

 もしかしていい方法でも思いついたのか。

 察しのいい彼女であれば、俺の行き当たりばったりな作戦が頓挫しそうなことには気づいているだろうが、それってつまり俺に対して呆れかえっているということでもある。

 この悪知恵が働いてそうな笑みは、もしかしなくても俺に対する嘲笑だ。

 こんなところで詰まるなんてダサいな、アタシのこと好きなのは分かったからカッコつけてないでさっさと帰れよ童貞──なんて言葉をぶつけてくるかもしれない。怖い。言われたら絶対へこむ。


「あのさ。……ちょっと後ろ向いて?」


 ま、回れ右して帰ってことか……。


「少しかがんで」

「あ、はい。……あの、藤宮さん?」

「よいしょ、っと」

「うおっ」


 俺が背中を見せた途端、藤宮が不意に飛び乗ってきた。

 決して重くはないが、突然こんなことをされたら驚いて転んでしまう恐れがある。

 おんぶしてほしいなら先に言ってほしい。

 急にやるのはホントに危ないのでやめてほしい。

 ふわふわのクッションみたいな正体不明の感触も背中に伝わってるので、できればこんな密着するのも勘弁してほしい。

 ……いや、待て。

 なんだこの状況?


「柏城くんはアタシを助けようとしてくれてる……って認識で合ってるのかな」


 うわっ、なんか髪から芳醇な甘い香りすんだけど。


「……柏城くん?」

「あっはいっ、はい。聞いてます」


 藤宮の認識は間違っていない。

 窮地から救う、だなんて驕った考えではなく、彼女の言う通りあくまで物理的な奉仕回避の一助になれば、と思って行動を起こしているだけだ。

 方法が違うだけで、藤宮に近づきたいという考えを抱いている点では、壁の向こうでお祭り騒ぎを起こしている男子たちとの違いはない。

 ここにあるのは、藤宮が許容してくれるかどうか、という線引きただ一つである。


「藤宮さん。もし、なにか方法が思いついたのなら教えてほしい。できる限りのサポートはするから」

「本当にいいんだ? アタシなんか庇って」

「だって、自転車を直してもらったお礼、メロンパンだけじゃ足りないからさ」

「……アハハっ。そっか。──うん、ありがと」


 礼と共に、腕を首に回してきた。

 どうやら本格的におんぶを要求してきているようだ。

 しかし、これは一体なんのための儀式なのだろうか。


「今からアタシ、めっちゃ激しく犯され過ぎてヘロヘロになっちゃった演技するから」


 何を言っているのか分からない。

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