第12話

「……ちょっと待って。よくわかんないんだけど」


 簡単な話だ。


 ──俺は藤宮を助けたかった。

 本当にただ、それだけの話だ。

 自転車の件での借りもあるし、彼女が奉仕制度に否定的だという話も聞いたから、恩を返すという形で藤宮をこの制度から遠ざけることができないか、と考えたのだ。

 その結論がコレである。

 誰よりも早く予約を取って、奉仕活動の終了時間まで俺がこの部屋を占拠する。

 そうすることで誰も藤宮には手を出せなくなり、彼女は一応性処理係として活動しながらも、決して身体を触れられることはない状況になる、という算段だ。

 

「制度のことを改めて調べたんだが、性処理室の利用可能時間はともかく、性処理係に奉仕してもらうこと自体の明確な時間制限はなかったんだ。あくまでマナーとして、数十分で終わらせるようにってみんなが言ってるだけみたいだな。だから、今日は最後まで俺がここを使うよ」

「……それ、大丈夫なの? 外で何十人も待ってるけど……」

「いや、まぁ……先に予約を取れなかったあいつらが悪いってことで」

「えぇ……」


 強引なやり方だということは重々承知だ。

 そう長続きする方法でもないだろう。

 だとしても今の俺にできる最善がこれなのだ。

 ダメになったらまた別の道を模索するだけの話である。

 この世界の”勇者”とかいう存在が作った常識を否定するための第一歩として、まずは制度を否定する隣の席の女子から助ける──そう心に決めてからは早かった。

 こんな誤謬に溢れたディストピアなどクソくらえだ。

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