第11話

「……さっ、最初の人が柏城くんだとは思わなかったな。……でも、まぁ、仕方ないか」


 最初は驚愕に固まった藤宮も、諦めたように目を伏せた。

 約束を破ってでも手を出したいと考えるほど、自分が周囲から求められている存在だということは、彼女自身も薄々感づいているのかもしれない。

 驕りではなく事実なので、その認識は決して間違ってはいない。


「……あはは、よく予約取れたね。名簿が発表されてから三分くらいで、定員の五十人は埋まってたらしけど」

「発表前の早朝に職員室へ行ったからな。誰かに先を越されるわけにはいかなかったんだ」

「っ。……そっか」


 そうまでして自分としたかったのか、とでも言いたげな失望の眼差しだ。

 俺の考えを聞いた藤宮は視線を横に逸らせて、遂に目を合わせてくれなくなってしまった。

 それでもいいのだ。

 俺はただ、自分が決めたやりたいことを実行しに訪れただけなのだから。


「それで、どうするの。……なんでもいいけど」


 落ち着いた様子とは裏腹に、スカートの裾を握る手は震えている。

 恩を仇で返され、最後に希った思いすらも裏切られて混乱している状態で、これから自分がされることを想像したことで体が強張っている。

 恐怖と緊張と悲しみがこちらまで伝わってくるかのようだ。

 ──だが、安心してほしい。

 どうするも何も、別に俺は


「じゃあ好きにさせてもらうから。いいな」

「……う、うん」

「…………」

「…………」


 ……。


「…………あの、柏城くん?」


 なんだ。

 いま来週提出しなきゃいけない課題をやってる最中なのだが。


「どした」

「なにしてるの?」

「何って……今日出された日本史の課題」

「……?」

「藤宮さんはもう終わったの」

「えっ。い、いや、まだだけど……──えっ?」


 性処理室内の机にプリントとノートを広げて課題を取り組む姿に困惑する藤宮。

 そんな彼女に構わず、俺は大塩平八郎の乱についての概要をノートにまとめていく。

 数分ほどそのまま続けていると、ついに疑問を抑えきれなくなった藤宮が席を立ち、俺のそばまでやってきた。


「アタシのこと……使わないの?」

「使ってるよ。いま藤宮さんが管理を任されてるこの教室を、こうして使わせてもらってる」


 コレが俺の、俺なりにできる最善の戦い方だ。

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