第10話


「奢ってもらっておいてなんだけど……ひとつ、お願いしてもいいかな」


 頷いて返事をした。

 藤宮は目を合わせてくれないまま、続ける。


「……アタシが担当の時は、来ないでほしい……っていうか、そんな感じのお願い」


 食べ終わったメロンパンの包装を丸めて、少し先にあるごみ箱へ投げた。

 惜しくも入らず、藤宮は階段から離れてゴミを拾いに向かう。


「柏城くんには見られたくないなって。……みんなに使われた後の、自分」


 改めて拾ったクシャクシャの袋を見つめながら、小さくため息をつく。


「たぶん、こんな感じになってるから」


 言って、ゴミ箱に投棄した。

 そのぎこちない笑みは、俺にはひどく痛ましいものに見えてしまった。

 どんな返事を返せばいいのか分からなくなっている俺の内心を察したのか、藤宮は『先に戻るね』と告げて踵を返し、校舎裏から離れていく。

 彼女は俺に、自分が担当する性奉仕係は使わないでほしいというお願いをしてきた。

 学校中の男子たちに好き勝手された後の姿を見せたくない、見てほしくないというのは、友人としての線引きを俺に求めているのか、それとも単に拒絶しているだけなのか。

 分からない。

 わからないからこそ、俺は考え過ぎないように決めた。

 俺は俺のやりたいことを、自分にできることを可能な範囲でやるだけだ。

 厚意で手を差し伸べてくれた隣の席の女子があそこまで追い詰められているというのに、別の世界へ来てしまっただとか何とかのたまって、自分だけ懊悩している時間など無い。


 やるべきことをやる。

 その為に俺は、こうして放課後の性処理室へと足を運んでいるのだ。


「…………なんで?」


 教室の中央の椅子に座っている藤宮が、若干震えた声でそう言った。

 困惑するのは至極当然の反応だろう。

 たった数時間前に、恥を忍んで願いを告げた相手が、何食わぬ顔でその約束を破りに来たのだから。

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