第4話
「……はぁ」
その日の帰り道の途中、割れたガラスを踏んでパンクした自転車を押しながら、辟易したようにため息をついた。
違和感の一因である藤宮依織という少女が、極めてまともな人間だったことは素直に喜ばしい。
しかし、俺の中で停滞し続けているこの状況への回答は相変わらず見つからないままで、不安だけが募っていた。
授業開始直前で教科書がないことに気がつき、結果として隣の藤宮に見せてもらったせいなのか、拗ねた田中は何を聞いても答えてくれなかった。
いろいろと知らなさすぎる俺に対して、若干嫌気が差していたのもあるかもしれない。
なのでスマホで軽く性奉仕係について調べてみたのだが、分かったのは基本概要だけであまり多くを知ることは叶わなかった。
正式名称は、性欲処理奉仕制度。
性犯罪抑制のため、男女問わず公共の場で性的な欲求を解消できる場所を設置する──といった目的のもと生まれたのが性奉仕係だった、ということくらいだ。
SNSでも当たり前のように受け入れられており、詳しい内容は入ってこず進展はほとんど無し。
こんな人権を無視したような制度を、当たり前のように受け入れる世界で生きてきたとは到底思えないのだが、現に自分がいるこの世界での周囲の人間たちがそれに馴染んでいるせいで、頭がおかしくなりそうだ。
何が正しくて何が間違っているのか、まともな判断が──
「あれ。……柏城くんだ」
精神的な疲弊からか足が止まり、加えて思考も停止しかけたその瞬間、何者かが背中に声を浴びせてきた。
振り返るとそこにいたのは、今朝席が隣になったばかりのクラスメイトの女子だった。
「……藤宮さん。帰り道、こっちだったのか」
「ん。そこの公園を左に曲がったらすぐウチ。柏城くんは……あ、自転車パンクしちゃってるのか」
不意に現れた彼女は、無惨な姿になった俺の自転車のタイヤを一瞥し、一言。
「……ウチ、くる?」
そんな、思いがけない提案をしてくるのであった。
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