第七楽章

突然、憂鬱になる事が良くある。

なんだかどうしようもなく廻りの存在に強い憧れを覚えたり、真っ当に生きる人々を見ていて凄く羨ましくなったりして、急に自分自身の不甲斐なさに腹立たしい気持ちになってしまうのである。特に弟であるノボルの生き方を目の当たりにするとそんな風に思う事が多々あるのだ。

今朝、久しぶりにノボルが僕に声を掛けてくれた。兄弟で同じ屋根の下に住んでいるというのにも関わらず最近ではあまり会話をしていなかったのだ。

ノボルは昨日、僕の幼馴染みであり友人の俊平から預かってきた物があると言う。

僕はノボルからその預かってきたと言う大きめの封筒を受け取り、早速中身を確認してみた。

その封筒に入っていた書類には今回、僕とクニオが調べていた事件に関する細かな情報が記載されていた。恐らく、クニオから頼まれた俊平がいろいろと骨を折ってくれたのだろうと僕は勝手にそう思った。

僕が昨日、一日中歩き回っても知り得なかった情報の総てが其処にはあったのだ。

そして、僕はまた自分の能力の無さに嫌気がさし、更に憂鬱な気分に落ちていく。


ただ、其処にあった情報はほとんどが僕の予想していた通りでそれがまた僕自身をより深く憂鬱にさせていくのである。


結局、僕に出来る事と言えば…。


僕は部屋の片隅に置いてある1メートル強の長さの黒きケースを手に取った。


なんとなくではあるが、ノボルの哀しみの視線が僕を止めようとしているような、そんな気がした。

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