第六楽章
東京都台東区、上野広小路近辺にあるクラブ。
クラブと言っても高級ではなく、キャバクラと呼ばれているお店。
そのキャバクラで一人の男が酒を飲みつつ女の子との会話を楽しんでいる。
その男、神野俊平はこの界隈ではちょっとした遊び人で客引きたちには一目を置かれた存在である、と本人は勝手に思い込んでいる。本当のところはただの金払いの良いカモなのだが。
キャバクラ嬢達に見送られてほろ酔い気分で店をあとにする俊平の背後から初老の男が近づいて来る。
初老の男は上野の坂を登ったすぐ近くにある警察M署のベテラン刑事、古川である。
「楽しめましたかな?」
「はぁ?俺がキャバクラにいる時がいつも楽しんでいる時だと思っているんですか?」
「と、言いますと?」
「今日は情報収集だよ。」
「例の事件のですね?」
「ああ。あの“ムーン”って店には数年前に起きていた大学生集団レイプサークル事件の被害者がいるんだよ。」
「被害者?」
「あの事件で唯一の死亡者である山崎ユウコの友達さ。」
「それで?」
「ああ、おやっさんの推測通り。腹違いみたいだな。」
「やはり。すると次の被害者は…。」
「確かにまた被害者は出るだろう。けど、警察は動かないで欲しいんだ。」
「とは言っても!」
「犯人もその罪は償うつもりなんだよ。きっと。」
俊平の説明に理解を示した古川は今回の一連の出来事の真相をを公にしない事に決めた様子で静かに警察署へと戻って行った。
古川を見送った俊平はそのまま歩き続け本郷、旧弓町地区へと向かう。
弓町界隈の路地裏にある一軒の近代的な建物。格闘団体WHQが所有するトレーニング施設である。
俊平はそのトレーニング施設を訪れた。中では二人の男、WHQのリーダーであり真木アキオの戸籍上の弟にあたる真木ノボルが実戦的トレーニングを行っている最中だった。
俊平の来訪に気付いたノボルはトレーニングを止めて、俊平に挨拶をした。
俊平はノボルに持って来ていたA4サイズの封筒を預けて、それを兄であるアキオに手渡すよう依頼した。
ノボルは俊平や兄がまた何かに巻き込まれているのを察しながら呆れ顔でその頼みを引き受けた。
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