第四楽章

随分と憂鬱そうな眼差しのまま無理な造り笑顔で女は僕達を迎え入れた。

女、小林ナツコ。否、小林は旧姓で今は浦沢ナツコというのが彼女の本名である。。

ナツコは造り笑顔のまま、わざわざゴメンねと、一言僕達に詫びをいれた。

僕達は久しぶりの再会らしい表面的な挨拶を済ませた後、リビングへと通された。

僕達の対面に座ったナツコは寂しげな表情になり静かに語り始めた。

話が進むにつれて彼女の表情はだんだんと悲壮になり陰鬱になり聞いているこちらの胸が苦しくなってくるようなそんな気さえしたのだ。


話された内容というのはなんとも難しいいような簡単なようなそんな感じで僕の隣にいたクニオなんかは終始眉間に皺を寄せながら理解しているのかしていないのか判らないような表情でその話を聞いていた。


要約すると数日前に警察が調査という名目で浦沢邸を訪れてナツコの亭主である浦沢真治にいろいろと質問をしたそうでその後、警察が帰ってから亭主は自分の部屋に引きこもり出て来なくなってしまったと言う。部屋に食事を持っていけば全て平らげて特に身体的な異常は無いそうなのだが部屋の中で一人で魘されたり喚いたりで精神的に追い詰められている感じがするそうだ。


ナツコはそんな亭主の姿を見ているのが辛く、そして亭主がそうなってしまった理由を知りたいと言った。


警察が調査していた事件というのが今テレビのニュースやらワイドショーなどで話題騒然中の変死事件、都内各地にある音楽スタジオにて三人連続で人が死んだという事件だ。だが、その事件も昨日の警察の正式発表では三人とも死因は心不全で故人が亡くなった場所が偶然三人とも音楽スタジオの密室内だったというだけで事件性は無いという説明であった。


ナツコは心細い口調でこう言った。

「事件の真相を調べて欲しい」「三人と主人の関係を調べて欲しい」

ナツコのその不安そうな表情は疑心暗鬼に掛かっているようにも見えた。

たぶんナツコは自分の亭主がその三人を殺したと疑っているのであろう。

そんな風に思いながら僕はもう一度ナツコの心を見透かすつもりで表情を読み取ってみた。

するとナツコの事がなんとなく、

僕の鏡のように見えた。

ただの錯覚であれば良いのだが。

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