第三楽章
「捜査打ち切りですって?」
東京都第5方面M署刑事課の中島は不機嫌そうな口調で言い放った。
言った相手は中島の相棒で初老の刑事、古川である。
ほんの一月半の間に都内各所の音楽スタジオにて連続三体の死体が発見されていた件が本庁の刑事部に於いて正式に事件ではないと言う事が決定したのだという。
「上の決定だからな。我々の捜査もこれで終了だ。」
古川はまだ若く刑事としての経験の浅い中島を窘めるように言った。
中島はその窘めが全く効いていない様子で反論をし始めた。
「上の奴らは捜査報告書とか見てるんすかねェ?」
古川は渋い表情のまま中島の反論に耳を傾けた。
「どう考えてもオカシイでしょ?たった6週間という短いレンジで全く同じような状況下の死体が三体も発見されているんですよ。しかも、我々の調査ではこの三人に殺意を抱いていてもおかしくない人物まで割り出されているんですよ。」
「確かにお前の言っている事は判るが仕方が無いだろ。本庁の監察医による鑑定まで出ているんだ。あれは他殺じゃない。」
「それじゃあ、三人の音楽関係者が偶然同じ時期に偶然同じようなスタジオの密室内で偶然同じような心不全で死んだって言うんですか?偶然が多すぎるよ。」
「そんなに叫んだって我々にはもう捜査権限は無いんだ。」
「それじゃあ、浦沢真治の方はどうするんですか?このまま取り調べもしないままなんですか?」
「ああ、浦沢は確かに気になるな。」
「そうでしょ?任意ってことで呼び出しちゃいましょうよ。」
「だから、もう捜査は打ち切られているんだから、そういう事は無理なんだよ。」
「じゃあ、このまま何もせずって事ですか?」
中島は落胆した表情で古川を見つめている。
古川は少し考えてから口を開いた。
「そうだなぁ、このままじゃあ後味も悪いし、これまでの捜査してきた情報は一応、流しておくよ。」
「流しておくって何処にですか?」
「国家公安委員会直属のところにだよ。」
「国家公安委員会?」
中島は聞きなれない部所の名前に疑問の表情を浮かべた。
「ああ。神野君ならうまい具合に収めてくれる筈だ。」
古川は部屋の窓からその細い眼でやたらと遠くを見つめながら落ち着いた口調でそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます