第二楽章

俺の実家である藤原商店は後楽園近くの裏路地にある古びた八百屋だ。

以前は小売などもして一時は繁盛していた事もあったが21世紀ともなった今のこの時勢では低空飛行のまま精一杯営んでいるというのが現状である。


その八百屋の三代目を名乗っているのが俺の兄貴でこれがまた兎に角やる気のない男でこの先、八百屋を続けて行く気がてんで無いような感じで毎日ただ野菜を運んでいるだけといった仕事で経営努力をしない。だからと言って野菜がたくさん売れるかと言うとそんな事も無く、毎月借金だけが嵩んでいくという有り様なのである。


まぁ、そんな事を言っても俺自身は次男坊でなんの発言力も無く、何を助言しようとしても全て兄と父親に却下されてしまいそのくせ早朝の市場への仕入れなどには無給で手伝わされてしまっているのだ。まったく次男という立場の辛いところだ。


こうやって現状を語って見るといかにも普通の八百屋次男坊だが実はそうでもなく、ここ数年、意味不明なトラブルに巻き込まれる事が多い。

別に俺が何かするわけではなく、ただ、偶発的に巻きこまれ、ただひたすら事の成り行きを見守る傍観者なのではあるが警察等の公的機関やマスコミなどはどうも勘違いをしていて俺がトラブルの中心にでもいると思っているらしくヘンテコなニックネームまで付けられている。

その渾名は“八百屋探偵”。

別に俺自身は八百屋の倅というだけで八百屋を営んでいるわけでもなければ、当然の如く探偵なんかでもない。ただ、事の成り行きをただ見ているのが退屈な時に少し自分なりに推理をする程度でそれがトラブル解決の糸口になった事も無ければその推理をマスコミに公表したことも無い。それなのに何故か“八百屋探偵”なのだ。


そして、今日もまたトラブルのネタが俺の元に舞い込んできた。


今日のネタを持ってきた主は、俺の友人の一人で名を真木アキオという。

渾名は“鬼”だ。

この男の場合、渾名がシャレになっていないのだがね。

尤もマスコミなんかは真相を知らないからいい気なもんなのだ。


辛いのは廻り、そして当人なのである。


とは言え、俺や俊平なんかも深くは考えない性質なのでマスコミ同様、いい気なもんではある。


辛いのは結局、アキオ本人だけなのかもしれないな。

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