第93話 偉大な魔法使い、ステグマイヤー博士の過去
私たちはマヤとツキヒコの所在を知る必要があった。なぜなら彼らがもしどこかで性交渉を持てば神道が危機に直面するからだ。
ただ、シュレネコは安心材料も示した。それは二人が神社の本殿以外でセックスをしたとしても、神道の霊力に触れないため効果が生まれないという可能性だった。
ステグマイヤー博士はこの地へ来るまでにセンターから数匹の生成AI昆虫をこちらに放ったということだった。ツキヒコとマヤについて学習させて、所在を探させているという。
私たちはPCのアプリを立ち上げ、各昆虫の所在を映像で確認した。するとNo.005という昆虫の映像にツキヒコが現れた。神社から逃げて山道の参道を下って行くシーンと、山道の途中にある小洞窟で隠れるシーンが映し出された。
よく見ると洞窟の壁面に後ろ向きになったツキヒコの肩が揺れている。しかも白い袴は摺下げられ、太腿が顕になっている。
「マヤ姫え、好きだあ、あっ、あっ、ああッ、き、きっもちイイっ」
「マ、マヤ、マヤ、マヤひ、マヤ姫、い、イク、イックウ」
「こいつマスターベーションしてやがるぜ」
シュレネコが呆れたように言い放った。ステグマイヤー博士が大きな溜息をついた。私は思わず笑ってしまった。
「でも罪がないって言えば、ねえ、思春期の少年にありがちな」
「花田さん、コイツ神様だから」
呆れてシュレネコが言い捨てた。
「ホントじゃ、この神社が無人の末社になった訳が知れるというものよ。これじゃあご利益無いわのう。早く八重で童貞卒業させねば」
七百猫がしみじみ言った。もう一匹の昆虫No.008がマヤを映し出していた。
マヤはくノ一の衣装のまま、凡々凸山神社の本殿の床に大の字になって寝息を立てていた。笠村は隣でマヤが着ている着物の襟を少しはだけ胸を露わにしようとしてニヤニヤしながら酒を呑んでいる。時々は裾も捲ったりして、涎を垂らしながらマヤの長い脚を鑑賞していた。
「こっちは一時、これで安心だよな」
私は安永に同意を得ようとしていた。安永も渋々頷いている。
「ところでステグマイヤー博士、博士が魔法使いだったなんて」
私は博士の方を向いて驚きを隠せないというふうに言った。
「私ですか、私は元々こちらの魔法界と人間界を行き来していたのです」
博士は初めて出生と生い立ち、経歴についての秘密を語り始めた。
「私はイギリス、ロンドンの下町に魔法使いの父と人間の母の間に生まれました。幼い時から人にはない突出した不思議な能力があり、父はそれを学校で隠すように厳しく言ったのです。
父も魔法界から人間界に下って小さな果物屋を営んでいました。私は人間界の学校でも成績優秀で、将来ロンドンにある大学で物理
学を学ぼうと目標を立てたのです。魔法ではない科学の力で世界を変えてやろうとね。
しかしある日、学校へ通う途上で白髪でマントを羽織った不思議な老人に声をかけられたのです。彼は言いました。
君にはとても強い魔法の力が溢れている。イギリスで名門とされる魔法学校に通う気はないかとね。
私は父に相談しました。すると父は魔法界を捨てた身なので自分ではなんとも言えない、しかし魔法界は恐ろしいところなので勧めはしないと。
するとある日、例の老人が私の父を訪ねて果物屋へやって来たのです。私はちょうど店番をしていました。
モルトレッド先生、と父はその老人の名を呼びました。モルトレッドこそその名門魔法学校で長年校長を勤めて退職した偉大な魔法使いだったのです。
アルフレッド、君も本当はイギリス魔法省で次官クラスにはなれた人材だったのに。モルトレッドは残念そうに言ったのです。
父は下を向いて黙っていました。父の表情に浮かんだ苦悩は深そうに思えました。父アルフレッドはモルトレッドが魔法学校で教えを授けた傑出した魔法使いだったのです。教科は主に
しかし魔法省で黒魔術の
父は目前でミルフォード捜査官が空中に消え失せるのを目にし、得意と自負していた黒魔術防御で彼を救えなかったことを一生後悔し続けたのです。
つづく
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