第94話 博士の提案

「どうしようかと迷った挙句、私は魔法学校に入学することを決意したのです。それは父を痛めつけた黒魔術と黒魔術師に復讐するためでした。


 魔法学校では入学時に入寮式があるのをご存じでしょう。その時も黒魔術を操る生徒が多く集まる寮があり、彼らは優秀な寮として自画自賛していました。


 確かに四つの寮の中でもそれは優等生が一番多かったのです。私はこの寮に入れば黒魔術がマスターできるはずだ、ということはそれに対抗し消滅させる魔法も身に付くはずだと考えました。


 それで入寮希望でその寮を第一志望に挙げたのです。面接で成績優秀とみなされた私は望み通り入寮することができました。


 ところが、同級生達の中には父の親友を殺害したリグナムを尊敬し、憧れを持つ者が多くいたのです。そればかりか私の素性をどこからか聞きつけ、陰惨な嫌がらせとイジメに及んできたのです。


 そういうわけで1年もしないうちに迷わず中退し、人間界に戻り高校から大学受験して、物理学と情報工学を専攻しました。物理学がメジャー、情報工学がマイナーです。そしてアメリカへ留学し、更に博士課程を履修し終わりました。


 しかし一方、ニューヨークの大学院で学びながら私は再び現地の黒魔術学校に潜入したのです。全ては黒魔術に対抗する手段を習得するためでした。


 そんな時、日本から来た留学生に出会い、彼女の優秀さに舌を巻きました。彼女の美貌は他の魔法使いにとって羨望の的でした。藤崎マヤです。


 マヤは黒魔術防御をマスターするために入学したと言いました。目的が一致していたので私達は交際するようになりました。


 彼女は肉体的関係を求めてきましたが、私は拒絶し続けました。するとついに私の純粋な学問熱に彼女も理解を示し、私達は良き学友として校外でも学問を深め合ったのです。


 ある日彼女は忽然と姿を消しました。日本でヒップホップダンサーとして芸能界を目指すという目的のためにね。


 だから今日、こんな形で彼女と再会してとてもショックを受けています。彼女は弱者にとても優しく、ホームレスの為に給食を配るキッチンに立ったりしていましたからね。


 こちらの神社において彼女の素行がどんなものであったか、センターの資料を精査してみてはどうでしょうか。彼女が本当にこの山で人々に怪我をさせたり事故に遭遇させたりしているのかとても疑問なのですよ。


 笠村と共謀していることは悪事ですが、彼女自身が及ぼした社会的被害を調べてみてはどうでしょうか?


 翻訳機能もあるので今、センター資料室にパスワードで入ってみたいと思います。科学研究室で生成AIを導入したので、プロンプトを入力すれば答えを会話形式で返してくれる筈です」


博士はヘッドセットを装着し、日本語翻訳機能をオンにした。そしてPCのセンターサイトに入りパスワードとIDを入力した。


そしてchatBOTplus という生成 AIソフトを立ち上げた。


音声入力開始。英ー日翻訳。

質問してください。


#神様研修センター資料室全資料  #極秘資料含む

#無人ドローンやAI昆虫の飛行による記録


凡凡凹凸山における藤崎マヤが単独で、或いは笠村和泉守と共謀し実行した顕著な悪事と、善良な行為を簡潔に箇条書きで教えてください。悪事を先に述べてください。年月は省略可能です。


了解しました。お答えします。


悪事 単独犯

凡凡凸山の裏手上り道から外れた林間で高校生カップルが夕刻抱きついて男子が服を脱がせようとしていたところ、藤崎が悪戯しようと黒魔術で一つ目小僧、ろくろ首、河童や天狗などの妖怪を現さしめ、男子生徒が失禁して女子生徒に平手打ちに合い、その後二人とも逃走した事実。


笠村と共謀して顕著な悪行を働いた形跡はありません。但し、神社を二人で占拠してしまおうとする陰謀は非難されるべき。


善行 単独行動

1 参道の上り道で歩けなくなった高齢女性を背負って、今日はお参りは無理だからと麓まで連れて行った。優しい女子大生に助けられたと報告あり。


2 山の中腹でキノコ取りに来ていた50代男性が道に迷っていたところ、若くて魅力的な女性に麓まで連れて行ってもらったという報告がある。


3 赤ちゃんが欲しいと五穀豊穣の神である御神体に祈っていた新婚カップルの願いを聞き届けた後、姿は現さずに魔法をかけ、その後すぐにカップルは子供に恵まれ、感謝の絵馬を拝殿に供えた。


4 参道の下り坂でスマホを落とした女子高校生についてやり、一緒に探して見つけてやった件。綺麗で優しいお姉さんがスマホを見つけてくれたと報告あり。


善行はこれ以下A4サイズ3ページに渡って延々と続いていた。


「やっぱりね」博士は頷いていた。


続いて笠村の履歴も同じようにして検索すると、そこには住民への野獣攻撃や事故誘発、予期せぬ岩石滑落などの悪事が同じようにA4サイズ3ページ以上に渡って述べられていた。


「今、マヤを拘束できたら閻魔王法廷での罪状は軽くなる筈です。ツキヒコやオババ、笠村との更なる陰謀に共謀させずに確保しましょう」


私は提案した。安永や博士、猫たちも同意し頷いていた。


つづく











 















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る