第90話  怨霊魔女退治に出発

 ついにその時がやって来た。私は安永くんに伴われてセンター宝物庫の中にあった鎧に着替え、刀二振りを腰につけた。宝物庫から出て来た時、神様研修センター全職員が廊下の両側に並び、最敬礼で迎えてくれた。


 私は武器など兵站を供給するロジスティックスの担当に安永くんを指名し、供に加えた。無人ドローンで必要物資を発注したり、受領、管理する担当である。宝物庫の管理は高木が当面の間、担当することになった。


 浅見が大きめの竹で編んだ籠を私に手渡した。その中にはシュレネコと七百猫が巴形になり、小さな寝息を立てて睡眠していた。浅見は七百猫の頭を撫でながら私に言った。


「お気をつけて。猫たちのミルクやクッキーは配達用ドローンで定期的に届けます。後方支援は私と高木で担当します。花田さんがアプリを立ち上げて会話を開始されれば、こちらがいつでも通信可能になります。どんな時もおっしゃってください。もう数人で担当を分担し、24時間交代勤務で通信に当たります」


「ありがとう、何から何まで」


私は短く答えた。


高木は何も言わなかったが、決意に溢れた厳しくも暖かい目つきで私を見ていた。安永くんは迷彩服に身を包んで緊張気味に直立していた。


まず私、安永くん、猫二匹は一階の道場に出向き、空手の師匠宮城恵尚とAIビリーに別れを告げた。宮城は近づいて腰を少し落とし、私の甲冑姿を惚れ惚れするように見上げた。


「花田さん、よくお似合いじゃ。無事のお帰りを心から祈っておりますぞ」


そう言って、小さな茶封筒を渡した。


「開けて見てくだされ、私とビリーからのメッセージです」


 私は厳かに封を切り、中の紙片を取り出した。それは丁寧に折り畳まれた書道半紙だった。そこには墨で黒々と達筆の端正な楷書が二行で書かれていた。


「空手無先手 先正其心」 


 (空手に先手無し、まずその心を正せ)


その下には、宮城の落款とAIビリーのサインが入っていた。

私がそれを厳かに推し頂いて一礼するとAIビリーが言った。


「特に藤崎マヤには十分気をつけてください。恐ろしい魔術と武術を持っています。アメリカに滞在中、 マルゴット黒魔術学校Malgot’s School of Dark Artsで西洋の黒魔術を学んでいるはずです。


ここでトレーニング中、黒魔術防御、即ちDefence Against Dark Arts習得のため極秘裏に通ったと言っていましたからね。


本格的なDark Witch, 黒魔術師です。花田さんにとって有効な防御はその腰に帯びた神剣二振りです。いかに黒魔術が強力であろうとも、神様から頂いた神剣には勝てますまい」


私は二人からのメッセージを鎧の胴に下げた布袋に入れた。


「ありがとうございます。これを鎧の下に着る直垂に縫い付けてお守りといたします」


私はゆっくりと二人に一礼した。


安永くんも緊張気味に短く一礼した。私たちは道場から出て正面入り口から外へ出た。


そこには飛行無人タクシーが待ち構えていた。安永くんが言った。


「センター科学研究室制作の自動運転飛行タクシーです。これに乗ってまず、凡々凹山にあるツキヒコの神社に乗り入れましょう。


ツキヒコは花田さんが神剣を振り回せば直ぐに服従するでしょう。

ガタイはいいものの、あの神様は頭がカルくてカンタンそうです。高木さんから聞きました。


 あそこは廃社ではないものの神官のいない無人末社の筈です。拝殿の前に広場があります。そこで野営しましょう。この中に、野営用の大きなテントが装備されています。このタクシーは太陽電池と蓄電池、モーターで駆動していますので、空調もあり、この中でも宿泊可能です」


つづく


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第90話までお読みいただき、本当にありがとうございます。

私もここまで執筆できたのは読者の方がたとえ1人でも少数でも

読み続けて頂けたからと、感謝しております。

今後もよろしくお願い致します。

感謝、感謝。










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