第89話 八重にTバックを着せて。

 私は特に恩を感じる二人のトレーナーに挨拶する前に、もうひとつ素晴らしいアイデアを思いついた。それはツキヒコが交わるべき八重をセクシュアルに武装させることだった。


 このままではツキヒコはマヤを童貞卒業の相手として選択してしまう。その選択を変えさせるには、八重の魅力をツキヒコに感じさせるしかない。


センターのデータセンターで八重を検索し、写真を見た時、彼女はマヤに劣らぬ美貌とスタイルを持っていることを発見した。


 私は一計を案じた。先日宝物庫へ訪問した時出会った安永くんは、同時に「この世」に来た友人がいるとのことだった。彼は閻魔王法廷の拘置所で看守を務めている。


 なぜそれを聞き出せたかというと、私がマヤを生捕りにしたいと話した時彼はこう言ったのだ。


「僕の友人で一緒にこちらへやってきた友人がいるのですが、彼は今、閻魔王法廷に勤めているのです。その男、立川たちかわは同じ大学に通っていて、マヤの大ファンだったのですよ」


 私は考えた。もしも立川がマヤのファンなら写真集や動画をみていたはずだ。それと同等かそれ以上のセクシーな扮装を八重にさせて、ツキヒコを誘惑すれば良い。


 それには賽婆を担当させればいい。賽婆は八重とツキヒコが結ばれるのを願っているはずだ。私は高木に相談し、所長の裁可も得て、閻魔王庁舎へ出張することにした。


 久しぶりに閻魔王、ブレディ・リサにも会いたかったのだ。朝日に照らされる巨大な鉄とガラスで出来た近未来的建造物を眩しく見上げながら、空調が心地良い庁舎へ入って行った。


 リサは巨大な執務室でいつものような満面の笑みを湛えて握手してくれた。そして館内電話で看守の立川を呼び出した。立川は看守の制服をダークスーツに着替えて入ってきた。私と高木は彼と名刺を交換し、訪問の意図を伝えると彼はいかにも嬉しそうにこう言った。


「実は安永と私は数年前、大学コンパで先輩に飲酒を強要され、急性アル中になってこちらの世界へ来たのです。葬儀の際、大学の友人が私のお棺に私が大ファンだったマヤの写真集を入れてくれたのですよ。タイトルは「イッちゃっていいのよ」っていうやつで。


 30万部売れた大ヒット作です。何ならセンターへお送りしましょうか。あ、私はスマホにデジタルで写真全部保管してるんで、いいっすよ」


 「それだ、是非早急に送って欲しい」


 私は彼とリサに経緯を詳細に説明した。リサもいい考えだと賛意を示した。私の考えはこうだった。写真集を参照して八重に今風のセクシーな衣装、例えばTバックや極小ビキニ、装飾性のある下着を着せて部屋でマヤに劣らぬ扇情的なポーズを取らせる。


 それを生成AI昆虫に多数枚撮影させて、写真集の原稿を作らせる。AI昆虫に原稿から写真集原稿を生成させるプロンプトを書き、スマホのアプリから命令を送る。


 それに基づいて、今度はAI昆虫の拡張機能から写真集を編集、印刷し、無人ドローンでツキヒコと賽婆に送る。そして賽婆に八重の魅力を語らせて、ツキヒコと八重を合体させ、マヤを断念させる。


 賽婆へのアクセスはまず七百猫にさせる。高木もリサもいちいち頷きながら聞いていた。


 最後に立川が言った。


「あの、出来ればマヤさん連れて帰って下さると嬉しいです。私、大ファンだったんで。彼女の動画とか写真集はみんな持ってましたから。イベントとか握手会もいっぱい行ったんで。今でも部屋にはでっかいポスター貼ってます。会いたいっすよ」


「そういう気持ちの若者がいるってマヤに分からせたいよな。今じゃとんでもない悪事に手を染めようとしてるけど、マヤは本当は心優しい乙女なんだよ。いろんな事情でどんどん堕ちて行ったって、君も知ってることだろ」


「ええ、AV堕ちしちゃった時は部屋で泣きました、オレ。一度マヤさんの握手会行って、ほんとにグラビアで癒されてますって言ったら、じゃあって言って、生写真何枚かくれたんですよ、もう優しさが嬉しくって。


 別の時もう一度会ったら覚えててくれて、「カノジョ出来た?「右手がカノジョ」卒業しなきゃ」ってね。フられて寂しくて、マヤさんが癒し、ってコクってたらちゃんと次の握手会で覚えてくれてて」


私はこの若者のためにも出来ればマヤを改心させ、極悪非道な所業を実行する前に確保してここへ送致しようと固く決意していた。


つづく



 













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