第85話  偵察機器開発チーム

「オババ、やっぱりワシはマヤ姫と結ばれてはいかんのか。」


ツキヒコは恐る恐る再度、賽婆に尋ねた。


「何度言わすんじゃ、お前が結ばれていいのは秋祭りの夜、嫁入り前の生娘だけじゃ。そいつにお前は床入りの技を伝授してやるのじゃ。すると娘は嫁いだ後直ぐにオトコに床上手だと認められ、毎晩、子種付けの営みに励み、稚児ややこに恵まれることになるのじゃ。


 どうしても種付けの技を事前に試したければ色狂いの性悪女ではならぬこと。オババに仕える八重やえで試すのじゃ。八重もお前に生娘の上手な扱い方を伝授してくれよう。」


「え、あの八重と寝るのか?」


「どこに不足があろう、八重は年増ながらなかなかの別品じゃろうて。また床上手でお前を何度も極楽イキにしてくれるわ。」


「そりゃ、やはりマヤ姫には勝てんてよ。あのハリのある乳の膨らみ、締まった腰、そして見事な尻もふっくら膨らみながらもよう締まっておる。あの尻の間にある秘所もさぞ締まっておって極上の心地に相違なしじゃて。


ワシは毎夜毎夜マヤ姫を恋い慕いて、男の根が擦り剥けるほどセンズリをコいてしまうほどよ。」


「戯け者、オババはお前の母親代わり、センズリは許してやろうぞ。飽きるほどコキまくってよしじゃ。精が尽きることはなし、オトコがオトコになるための修行よ。


だがじゃ、あの性悪と床入りは絶対に許せぬ。駆けつけてあやつと刺し違える覚悟じゃ。」


「もしや、やってる最中にか?」


「戯けもの、やる直前よ、分からぬかこのウツケがあ。」


オババの絶叫が部屋中に響いた。スクリーンが暗くなり、動画が終わった。


「参りましたね、ったく。」


隣に座っていた高木が私に耳打ちした。私は苦笑いしながら頷いた。


 ステグマイヤー博士は眉間に皺を寄せながら、ワゴンの上に被さった白布を取り除いた。アクリルケースの中に昆虫が二匹蠢いていた。博士はヘッドセットを被り直し、マイクをオンにすると昆虫を見つめながら静かに指示した。


「Stay. Don’t move.」


昆虫の動きが止まった。そして後ろに控えていた南研究員に英語で囁いた


「Yeah, I got it.」

 流暢な英語で承諾の意思を伝え、ポニーテールに白衣を着た細身の彼女は昆虫の後ろに立った。彼女は前方の長机に向かいながら、説明を始めた。



「この右側のコガネムシは本物の生きた昆虫です。私が中心になり、この虫の背中に撮影可能な超薄型の太陽電池で稼働する軽量カメラモジュールを装着し、アプリを使ってスマホ内に映像を送る装置を開発しました。


 そしてカメラモジュールを適宜な位置に移動させるために、超小型のAIロボットを背中に搭載し、昆虫の動きを制御することに成功したのです。


 ところが国際研究機関から、昆虫の動きを制御するためには、昆虫の身体に負担をかけ苦痛を与える可能性があることを指摘されたのです。


このアニマルライツ、「動物の権利」は今や国際的な要請と言えるのです。


 そこで我々センターは黒田室長と検討し、イングランドのセアリー大学ロンドン校データサイエンス学部からこちらのステグマイヤー博士を招聘し、更に研究を進めました。


 その結果、博士と私が共同開発したAI昆虫ロボットが左側です。我々の音声指示通りに動き、そしてよりクリアで的確な映像をデジタル機器に転送します。


 また、ロボット自体が学習する機能があるため、危険を察知する能力も生成することができるのです。


 今回、問題になっている両山の神社と賽婆の屋敷に既に送致されています。こちらからの要請により、いつでもクリアな映像と音声が取得できます。また、先程の写真集タイトルのように文字や映像、音声を拡大、増幅したい時はそれをアプリで伝達すると瞬時に可能となります。


 これで私のプレゼンを終わりますが、質問などございましたら、今日は日程の関係上、私のメールアドレスにお送りください。但し、より専門的な事項は直接センターへ訪問して頂く方が有り難いです。午前中には会議がないので、できれば午前中にお願いいたします。以上です。」


 

 拍手が鳴り止まなかった。南研究員は深々と一礼した。私は部屋の後ろに控えている平田研究員をチラ見した。彼は大きく拍手しながら南研究員を見つめて、励ますように何度も首を縦に振っていた。


つづく
















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