第83話 太極図は宇宙の循環のアナロジーーシュレネコの講義
休憩が終わり、我々は再び大会議室に戻った。研究室室長の黒田が立ち上がり、シュレネコを抱き抱えると、一段高い中央の演台に乗せた。
「 ここからはいよいよ、シュレネコによる太極図とそれに関する説明です。先ほどお話しした魔女マヤとツキヒコが性交渉を持つことの危険性をシュレネコから解説してもらいますので、ご清聴お願いします。」
「シュレ殿、落ち着かれよ、まずは臍下丹田、深呼吸じゃ。」七百猫が後ろの床隅から応援した。。
「まかしとけって、さて、太極図をご覧ください。」
シュレネコは演台に置かれたラップトップを操作して後ろのスクリーンにパワーポイントの画面を映した。
「この太極図とそっくりな構図が我々の宇宙です。」
「あいつ、タメ口じゃねえじゃん、七百の影響かよ。ネコが臍下丹田だってよ、そうくるか。」
高木が私に耳打ちした。
「やはりネコ同士でも、お互い尊敬って大事だよな。」
私が小声で返した。
「皆さんは宇宙にブラックホールというのがあることをご存知でしょう。ブラックホールとは光さえも飲み込んでしまう暗黒の穴ですよね。
アインシュタインは宇宙の時間というものは光速によって規定されていることを発見したのです。ですが、光すらも飲み込んでしまうブラックホールによって、空間はもとより時間すらも消滅してしまうということが20世紀になって発見されました。これはある意味、アインシュタイン理論の否定というか更なる進化です。
しかしね、ブラックホールによってこの宇宙全体が消滅しないのはなぜでしょう。それはね、ブラックホールがマイナスに帯電した電子を吸収する時、プラスに帯電した反物質の電子を放出して帳尻を合わせているんですよ。ブラックホールは全てを吸収するだけでなく、放出もしていたんですよね。なぜかって、それは高校の物理Iで習ったでしょう。エネルギー保存の法則ですよ。」
「ああ、頭痛くなってきたぜ。オレ文系だったしよ。」
高木が私に耳打ちした。私が微笑んだ時、シュレネコが高木の方をチラ見しているのに気がついた。
「全てのエネルギーを吸収してしまう特異点に達した時、プラスのエネルギーを放出して新しい宇宙を形成するということなんですよ。これがビッグバン、即ち宇宙の始まりではないかと唱えたのがかのケンブリッジ大学トリニティ校在籍であった天才物理学者、スティーブン・ホーキング博士です。
プラスのエネルギーは光をもたらし、宇宙が再び膨張してゆく。即ち、宇宙には収縮して飲み込まれるプロセス、即ち太極図において「陰」で表される時期と、膨張して拡大してゆく「陽」の時期がある。太極図は言わば、グルグル回って運動している。「陽」の中の小さな「陰」の点が段々拡大してゆくとブラックホールが形成され、ブラックホールの中から「陽」に帯電した電子が生まれると、この宇宙が再び形成される。
しかしながらこの法則性を破って、「陰」に帯電した電子と「陽」に帯電した電子を衝突させると、どんな結果がもたらせるのでしょう。それは理解不能のエリアです。
もし質量を持つ2つの帯電した粒子を衝突させるとします。するとアインシュタイン方程式によってお互いの質量に光速を二乗した巨大なエネルギーが生じ、この宇宙全てが崩壊する。僅かIグラムの質量もエネルギーに全て転化すると恐ろしlい量となる。これを悪用したのが核兵器であり、アインシュタインやオッペンハイマーが戦後、謝罪と後悔の慟哭に明け暮れたのはそこにあるのです。
しかし、質量は微小とはいえ、陰陽逆方向のエネルギーを持つ粒子を衝突させると恐ろしい結果をもたらすのではないか。
魔女藤崎マヤはこれを精神世界によって行なおうとしている。これは神道における全ての精神世界を破壊するかもしれない実験であり、許すことはできないことなのですよ。」
ここまで話すとシュレネコは黒田の方を向いた。
「これでよかったっけ、黒ちゃんよお。」
黒田がうなづいた。
「シュレ殿、立派じゃったぞ、お見事じゃあ。天晴れ。」
七百猫が後ろで叫んだ。
「友がいるからよお、応援してくれる友がな。」
そう呟くと、シュレネコは演台から飛び降りで七百猫の元へ
駆け寄って行った。
つづく
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