第79話 笠村一族の怨霊
黒田の説明は続いた。
「笠村は、反抗する民百姓を容赦なく斬り捨てたといいます。領民たちは皆笠村を恐れ、反乱や一揆等は起こそうにもその隙がなかったのです。
笠村はこの山の頂上に城を築き、山麓に深い堀を巡らせ、物見櫓を築いて厳重に警戒していました。
この領地の西隣には、名君と評判が高い武将が治める領地がありました。
村地は温厚な武将で教養も高く、茶や花道、能楽にも通じ、京の幕府や公家たちとも交流が深かったのです。彼は京の都で権力の中枢にいた藤原家の
かねてから堺の鉄砲商人、
笠村の領地から流れてきた百姓たちの訴えを聞き、義憤に駆られた村地は己が領地の一角で鉄砲の特訓を行い、山城を包囲したのです。頑丈な木材で仮設の橋をこしらえ、堀を渡り、山城ヘ攻め込みました。そして圧倒的な火薬量で笠村軍をほぼ全滅させたのです。
そして館に残った一族郎党と女人たち、正妻と側室2人の合計20余名は城に火を放ち刺し違えて滅んだのです。
村地右京大夫は、この地の領民が山を慕っていることを知りました。村地は領民が木材によって生計が立てられるようにとの思いで、山を守護するため、城跡を更地にして新たな神社を建立しました。
笠村を憎んでいた村地は、怨霊となった村地一族の霊魂を鎮めることなどしませんでした。むしろ笠村の暴政を恥として、領民の年貢や兵役を大幅に軽量化しました。兵役には武士になりたい百姓を募集したのです。
笠村一族の怨霊は長らく地下に鬱屈していました。神社は都の藤原南家から出向した神官が務め、また副官として京の陰陽師が仕えていたからです。この二家により神社は平成の世まで平和を保っていたのです。
しかし二家に後継者がいなくなり、地下でうごめいていた笠村の怨霊一派が地上に出てきました。それまでこの山で野獣による村民への被害はなく、落雷による火災も皆無だったのです。しかし、ある時を境に、にわかにこのような災害が激増したのです。
村の古老でよく史実を知る人は、きっと笠村の怨霊がなせる業だと噂していました。もちろん、行政は怨霊を鎮めるなどという宗教的行事に関われるはずもありません。そこで我々神様研修センターが適材適所と思える神様候補をこの地に送ることにしたのです。
高い霊能力を持ち怨霊一派と戦えるとみなして、当時センターで研修を済ませた藤崎マヤを派遣してしまったのです。これが全ての過ちを引き起こした原因なのです。」
つづく
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