第78話. 戦乱の凡凡凸山《ぼんぼんとつやま》

黒田が話し終えると辺りに深い沈黙が訪れた。ふとスクリーンを見ると、聖徳太子は再び救世観音の姿に戻っていた。しかし太子の流した涙の跡は二筋残り、誰もがその様子に心を痛めた。


「聖徳さんよお、よかったじゃねえか。」


シュレネコが口火を切った


「聖徳さんが正直に心の内を話して、ああやって閉じ込めていた自分の感情を外に出すことができてよかったぜ。」


「本当だな。」


と私が応じた。


「この機会がなければ、歴史の闇に埋もれていたのかもしれんしな。太子様ありがとうございました。」


 私を含め皆が太子に深々と頭を下げ、感謝の言葉を口にした。浅見がスクリーンのスイッチをオフにした。


「さあ皆さん、今日はお集まりいただいていてありがとうございました。遅くなりましたが、お帰りいただき、ゆっくりとお休みください。明朝10時よりまた会議を持ち、次のステップに進みたいと思います。いよいよ魔女退治の算段です。」


高木が締めくくった。


 次の朝大会議室に集まったのは、昨日のメンバー、すなわち、私、高木、黒田、浅見、七百猫、シュレネコ、と所長の平岩敬語だった。


 黒田が前のスクリーンでPowerPointを立ち上げ、史実の説明に入った。


 「16世紀の後半、この日本中が戦乱の渦中にありました。室町幕府は有力守護大名の合議制で成立していましたが、すでにその力はなく、13代将軍足利義輝は、有力大名の三好長慶みよしながよしによって一時は京の都を追われ、近江朽木に潜伏するような有様でした。


 やがて三好長慶は老境に至り、三好一派の勢力が弱ってきた所へ、将軍義輝は京に帰ってきます。しかし彼を待ち受けていたのは、三次家の家老で力を蓄えてきた松永弾正久秀まつながだんじょうひさひでだったのです。


 彼はニ条御所に帰っていた将軍義輝を襲うのです。永禄8年5月19日、総大将を三好義継みよしよしつぐに仕立て、総勢450名で、ニ条御所を取り囲み、屋敷へ侵入しました。


 貴族化した足利将軍にしては珍しく義輝は乱世を生きる将軍らしく、剣の達人でした。剣豪塚原卜伝から一の太刀の奥義まで拝領した彼は、太刀数本を手元に置き、敵方を斬りまくります。やがて将軍御所に火が放たれ、怯んだところを躓き、敵方の無名兵士に杉戸を被されて、上から刺殺されたのです。


 三次と松永はかつてから養育していた足利家の義栄よしひでを、14代将軍に擁立します。これが中央政界の流れです。


 この時、ある地方でもこの動乱を受けて、騒乱が起ころうとしていました。それが皆さんご存知の今回問題になっている凡々凸山ぼんぼんとつやまに巣食う怨霊の一件です。


 当時、この地方を所領していた戦国大名は、笠村和泉守為政かさむらいずみのかみためまさでした。和泉守といっても、正式に朝廷から宣下を受けたものではありません。戦国時代、律令制度は瓦解し、武将たちは己が威光を周囲に知らしめんがため、勝手に名乗りをあげていた始末です。笠村は残虐な荒武者として悪名高く、領民を搾取し、年貢や兵役を過大に課していたのです。



つづく











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