第76話 隠された十字架の意味 (3)
「太子様はご存知なのですか?」
シュレネコは初めて敬語で太子に応じた。
「不思議なもので私は自らの生い立ちを知り、ある時、私の若い頃からの強力な後援者であった
当時隋の都でも景教という名でイエスの教えが広まりつつありました。私はイエスという方との不思議なご縁を感じていたのです。
秦河勝という方は、秦氏の出身です。秦氏と言うのは4世紀に秦国から朝鮮半島を経てわが国へ渡り、帰化した一族です。河勝殿も大陸とのつながりが強く、様々な交易を通じて朝廷においても影響力が強い方でした。
私が仏教を広めようとしていることを知り、様々な面で経済的支援をしていただいていました。
その河勝殿は西洋の事情にも詳しく、私の生い立ちや業績にも強い関心を示しておられたのです。私は河勝殿がひょっとすると景教の信者ではなかったかとすら思う時があります。この方の様々な助言を聞いているとそう思わざるを得ない。
当時、隋の都には、シルクロードを通じて様々な西洋の文物が流入していたのです。景教と言われるキリスト教ネストリウス派の教会も存在していました。河勝殿は私の出生や神秘的な能力がイエスとよく似ていると申されたのです。私はそんな神の子では無い筈なので、笑って聞き流していました。
すると真剣な眼差しでおっしゃるのです。あなたはもし西の果て大秦国(ローマ帝国) に生を受けていたならば、イエスの教えを広める聖人になっていたやもしれない。
実はイエスの教えは、シルクロードを通って隋の都に来るまでに、仏教に大きな影響を与えているのだと。例えば、文殊菩薩や、弥勒菩薩などは苦しみに満ちたこの娑婆世界に生まれ、衆生を救おうとなさっていると。これは明らかに仏教が、イエスの教えから影響を受けた形跡の筈だと。
それは神の子が苦しみに満ちたこの世界に降り立って、民衆を救おうとしていることと相似形だからだと。
あなたはこのような聖人として衆生を救うために、この世に生まれ立ったのだ。
このようにおっしゃったのです。
それで私は蘇我一族を一致団結させて物部氏を倒し、寺院を建て、仏法を広めることに精進したのですよ。
蘇我氏は貶められていますが、寺院建設や仏教の布教に対して大きな経済的支援をしてくれました。そして、当時大陸で力をつけてきた隋や新羅と交流をし、新しい知識や情報を取り入れることに力を尽くしていたのです。
私が蘇我氏と縁戚関係にあるから言うのでは無いですが、蘇我氏や私の一族が滅んだことに対し、今でもとても悲しく感じております。それはあなた方同様、いや、それ以上と言っても良い。
ですが、本日このようにお集まりいただき、私の話をお聞きしていただいて、私の心も少し安らかになりました。そこの猫たちにも改めてお礼を言いますよ。ありがとう、お互い仲良くな。」
七百猫とシュレネコは顔を見合わせた。
「仲良くしようぜ。」シュレネコが口火を切った。
「ああ悪かったなぁ、シュレ。」
「時代錯誤の化け猫なんて言ってオレも悪かったよ。」
「これからは仲良くセンターのミルクを分けようぞ。」
「もうオレもお前の分を取ったりはしねえ、約束するぜ。」
2匹はお互いを見て頭を下げた。
聖徳太子の顔がほころんだ。
その瞬間黒田が話し始めた。
「皆さん、これまでの話についての背景を、改めて私からお話ししましょう。おそらく聖徳太子様には釈迦に説法になるやもしれませんが、しばらくお聞き下さい。」
つづく
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