第73話 隠された十字架の意味 (1)
「藤原不比等の時代になり、藤原氏は権勢を極めるようになりました。しかし、天平4年、不比等のもとで権力の中枢にいた4人の息子たちが次々と疫病で死ぬのです。藤原家の者たちは祖先の悪行を知っています。皆口々に、これは聖徳太子と山背大兄皇子の祟りに違いないと言うのです。
そして寄付が集められ建てられたのがこの夢殿であり、今太子のお姿となっている救世観音様なのです。
藤原氏の長者である不比等は考えました。聖徳太子の怨霊をこの仏像に閉じ込めなければならぬと。そしてそのお顔は太子そのままに造形したのです。高村光太郎はこの像を見たとき、それを看破したといいます。
そしてここからが恐ろしいところです。お体の中を全て空洞にし、後背は直接釘で後頭部に打ち付けたのです。先ほども申し上げました通り、頭に釘を打ち付けるとは呪詛にしか思えないこと。その上でこの像を、白布によって多重に包み、秘仏としてこの厨子に1500年もの間、閉じ込めていたのです。しかもこれを人目にさらすことが災いをもたらすという都市伝説付きでね。
これらすべてを提案したのは当時朝廷で大きな権力を握っていた怪僧、
それだけではありません。この法隆寺と申す建物自体にも太子に対する呪詛が散りばめられているのですよ。一例を挙げると中門の真ん中に柱が打ち付けられているのです。通常、寺院の山門において、真ん中が柱で区切られていることは無い。それは参拝者やお祀りしている御仏を遮断することだからです。
しかし、ここにも太子を閉じ込めようとする意図が感じられる。この他この法隆寺には、不思議と怪奇に満ちた構造が満ち満ちていて、全てが太子を幽閉しようという意図に溢れている。逆に言えば、それだけ藤原氏が聖徳太子とそのご子息一族に対して行った悪逆非道がもたらすべき祟りを心底恐れていたということです。」
ここまで言うと七百猫は話を止め、聖徳太子の方を向いた。太子はゆっくりと頷き返した。その瞬間である。急に後方のドアが開き、研究室室長の黒田が黒猫を抱えて入ってきた。
「神様研修センター研究室室長の黒田耕一郎と申します。」
黒田は太子に挨拶をした。そして前に進み、シュレネコを七百猫の隣に座らせた。
「この猫はシュレネコと申しまして・・・・。」
黒田が言いかけると、シュレネコは聖徳太子に向かって声をかけた。
「聖徳さんよお、シュレネコってもんだけどよ。」
「無礼者!こちらの方をどなたと心得る。そしてお主はなんでここにきたのじゃ。」七百猫は叫んだ。
「ったくよお、ウッぜいやつだな、おまえって。大時代がかりの化け猫のくせによー。」
「控えよ、この場をなんと心得る。」
「まあ良いではないか、この者の言うことも聞いてみようではないか。」
聖徳太子は七百猫を諭すように声をかけた。
「あのさぁ、オレもいろいろ読んだけどな、聖徳さん、あんたよお、悔しくないのかよ、悲しくないのかよ。」
それは本質的な問いのように私には聞こえた。私は少し心を打たれていた。他の誰もが静まり返っていた。
「オレはさぁ、西洋のオーストリアってとこの生まれだけどさぁ、シュレディンガー博士って言う立派な人に飼われていたのよ。
それでさぁ、毎週日曜になると、ある神様と対話をしに教会ってとこへ連れられて行ったのよ。
あんたの伝記や記録を読むとさぁ、
その神様のことを思い出すんだよな。」
つづく
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