第68話 日本史最大の闇 (4)ー陰謀遂行
中臣氏と言うのは、古来より物部氏のもとで朝廷に出仕していた一族です。朝廷における影響力は低く、鎌足の父とされる
そして息子の鎌足については、この事件まで朝廷内の貴族たちもほとんど知らなかったのです。私は大いに怪しんでいたのですが、入鹿は鎌足に面会し、こう言われたというのです。
「確かに仏教や律令制度の導入については、聖徳太子に大いなる功績があります。そしてその子山背大兄皇子も人徳が高く、人々から敬愛されています。しかし
これは私と親しい
飼猫であった私は、父親の蝦夷にこの事は相談すべきだと口を酸っぱくして言ったのです。入鹿がこのことを父に告げると、蝦夷はこう言ったそうです。
「父も古人皇子を推してはいるが、このことはもっと慎重に進めるべきだ。中臣などという見知らぬ者の言うことに軽々しく乗るべきではない。これには何か裏があるのではないか。」
私はこの中臣鎌足という男がどうも怪しいと思いました。そして、様々なところを嗅ぎ回り情報を集めたのです。
猫は人間より嗅覚が鋭いのですよ。
すると鎌足は軽皇子を介して皇極帝に近づき、山背大兄皇子より直系の皇子である古人皇子を即位させようと働きかけていることを知りました。そして軽皇子の所へ頻繁に出入りして、山背大兄皇子を排除しようと企んでいると言う噂を聞きつけたのです。
私は入鹿に、この企みに加わるときっと中臣一派に嵌められる、それはお前が権力の中枢にいるからだ、と忠告しました。こういう時、入鹿という男は優柔不断なのです。一方では古人皇子と親しい彼は更なる権力を所望し、かといって一方では、自分の立場の危うさも感じているようでした。どちらともつかない返事をして、いつも私の忠告をはぐらかしていたのです。
そしてとうとうその陰謀は実行の時を迎えました。山背大兄皇子殺害遂行の当日、入鹿は古人大兄皇子の元を訪れて、計画遂行の挙に出る意志を伝えたと言います。すると、皇子はとても意味深長な返答を入鹿に返したのです。
「ネズミは穴に伏して生き、穴を失ひて死ぬ。」と。
お前のようなちっぽけな奴が行くとすぐに捕縛され、権力も失って死罪となるであろう。やめた方が良いと。即ち事件に加担していた皇子は、権力を掌握していた入鹿が嵌められて、事件の首謀者に祭り上げられてしまうだろうと危惧してやったのです。もちろん、気弱で優柔不断な性格を持っていた入鹿は恐れおののいて、自宅から一歩も出ませんでした。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます