第64話  Maya &Momo, Together At Heart (3)

 「世間は怖いものよ。やがて写真週刊誌に男との関係がすっぱ抜かれ、マヤはクスリに関する悪い噂や真実をかき立てられて人気を落としていった。社長と女の思う壺となったわけじゃ。


 わしがマヤと出会ったのはそんな時じゃった。わしはその時、生涯ずっと東京の裏町に暮らす野良猫で、老いさらばえ、路地裏のゴミ箱をあさって命脈を保っておった。もう命が尽きるかという衰弱の中でマヤに拾われた。そして部屋へ連れ帰ってもらい、わしはあいつと一緒に住むことになったのじゃ。


 あいつはわしを「モモちゃん」と名付けた。わしの本名を知らなかったのに、さすがの霊感よ。わしらはベッドの片隅で体を寄せあって過ごしておった。マヤは凍りつくような孤独を癒すため、わしの体温を感じながらもいつも泣いておった。しかも、マヤの生まれ持った情欲の炎は燃え盛り、それを消すこともできぬ。男に溺れ、二重の鎖に縛られたも同然じゃった。


 わしの言葉がわかるようになり、わしらはお互いの身の上を暴露し合って心の傷を舐め合うようになった。それでわしがつい話してしまったのは、聖徳太子様の一族に関するどす黒い歴史の闇よ。そしてな、マヤも卓越した霊能力のために、それをうすうす知っておった。


 前世でのいくつかの記憶が蘇ってきたと言うのじゃ。それは平安時代末期のこと、貧しい物売りの子として生まれたマヤは、「かごめかごめ」の歌を子供たちと歌って遊んでおったという。そして平家の公達に唆され、もっと歌うようにと菓子まで貰ったという。


 そして歌っていると、破れ笠を被り、薄汚れた僧衣を身に纏った遊行僧がマヤの前世での女の子に話しかけたと言う。


 「わしは蘇我一族の成れの果てよ。大昔、蘇我と言えば天子様の元で権力を誇り、国を富ませていた最高の一族じゃった。しかしある時を境に、百済から来た占い師の男が天子様を騙して、わしらの一族を滅ぼし、権力を乗っ取ったのよ。それが恐ろしい藤原の一族よ。そいつらのおかげで落ちぶれたわしらは、子供らにこの歌を教えた。そして、恨みのこもったこの歌を都の辻辻で歌わせて、藤原の者どもの肝を冷やしてやろうとしているわけさ。」とな。



 花田殿にはこの話は後にゆっくりと語るつもりじゃ。マヤの話に戻ろう。週刊誌報道で薬物使用を疑われ、マヤはグラビアアイドルからAVへ転身して行った。いわゆる「AV堕ち」じゃな。その後、男の部屋で合成麻薬を服用しながらセックスにふけっているところを絶命した。


 男はすぐ警察に自首し、逮捕されたが、駆けつけたわしはまたも絶望の淵にあった。わしは蘇我入鹿の時と同じく、あいつの汗ばんだ背中に乗り、悲しさで全身を震わせておったのじゃ。今思い出すだけでも胸が痛くてな。わしの七百回目の最後がこのような形で終わろうとは、全く、全くやりきれぬ思いなのじゃ。


つづく





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